第6話
*
「ここ……だよな?」
高志はバイト先に到着したのだが、本当に場所がここなのかどうか悩んでいた。
「でっかいなぁ……」
伝えられた住所の場所にあったのは、大きな家……お屋敷と言って良いほどの大きな家だった。
貸しビルや店舗を想像していた高志は、本当にこの場所で良いのか、何度も住所を確認する。
「ここ……だよな……」
何度確認してもやはりこの場所で間違いは無い。
とりあえず高志は約束の時間が迫っているので、家のインターホンを押した。
『はい』
優しげな女性の声がインターホンから流れてきた。
「あ、あの昨日電話した八重です、バイトの件で尋ねて来たんですが……」
『はい、伺って下ります。お迎えに参りますので少々お待ちください』
とりあえず間違いは無かったようだが、高志は逆にそれが心配だった。
一体何をさせられるのだろうか?
こんな大きなお屋敷の持ち主だから、お金は持っていそうだが……。
なんて事を考えていると、門が開き、メイド姿の女性が高志の前に現れた。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
「は、はい……」
リアルメイドに驚きながら、高志はメイドさんに連れられて屋敷の中に入っていく。
広い庭に広い玄関、高志は一体ここで何をさせられるのか不安で仕方なかった。
「こちらの部屋でお待ちください」
「あ、はい」
そう言って部屋に通された高志、恐らくは客間だと思われるその部屋には、ソファーと机、壁には高そうな絵画が飾られていた。
「うわ……ふっかふか」
ソファーもふかふかでなんだか高そうな感じがした。 少し待っていると、部屋の扉が再び開き、40代くらいの男性が入って来た。
執事のような格好で、キリッとした目で高志を見る男性。
高志は絶対にこの家の執事であろうと思っていると、男性が話し始める。
「君が八重君か」
「はい、今日はよろしくお願いします!」
挨拶をする高志。
男性はそんな高志の座っているソファーの向かい側に座り説明を始める。
「私は伊吹裕悟(いぶき ゆうご)。この家の執事をしている者です。今回のアルバイトの説明役を任されました」
「は、はぁ……」
「早速業務の内容を説明します」
来た。
高志はそう思いながら、拳を握り締める。
一体どんな仕事なのだろうか?
この時点で高志はかなり怪しい仕事では無いのかと怪しんでいた。
「一言で言うと……貴方にはこの秀清家の一人娘……秀清瑞稀(しゅうせい みずき)様を喜ばせていただきます」
「は?」
業務の内容を聞き、高志は思わずアホっぽい声を出してしまった。
「あ……あの……良く意味が……分からないのですが……」
「そうですよね、皆様そう言われます」
「他にもバイトに来た人が?」
「えぇ、貴方で十人目です」
結構来ているんだなと高志は思いながら、話しの続きを聞く。
「詳しく申しあげますと……この屋敷の主人……秀清忠次(しゅうせい ただつぐ)様はお嬢様を喜ばせる為にあのような求人を出しました」
「はぁ……でもなんでですか?」
「それは……お嬢様は病弱で長くは生きられないないだろうと言われているからです」
なんだか重たい話しだなと高志は思いながら、静かに話しを聞いていた。
「旦那様はお嬢様の残りの人生を楽しいものにしようと、色々な事をお嬢様にしました。海外旅行、パーティー、とにかく色々です。しかし……お優しいお嬢様は表向きでは喜んでいても……毎日泣いていました……もっと生きたいと……」
「……」
なんだかとんでもないところにバイトに来てしまったなと感じる高志。
要するにそのお嬢様を喜ばせるのが俺の役目なのだろうが……俺にそんな事が出来るのか?
「旦那様は仕事ばかりの人で、楽しい事というものがなんだか良く分からない人なのです、だから自分でお嬢様を喜ばせるのに限界があると感じ、人を雇うことにしたのです」
話しは分かったが、そんな大事な事をアルバイトに任せて大丈夫なのだろうか?
他のバイトはどんな感じだったのだろうか?
「あの……他のバイトの方はどうだったんですか?」
「業務内容に困惑し辞退した方、お嬢様を喜ばせられなかった方、色々でしたがすべて失敗でした」
まぁ、そうだろうな……。
高志はそう思うのと同時に、このアルバイトを受けるか受けまいか悩み始めていた。
「貴方はどうしますか?」
「え?」
「内容が内容です、辞退されてもこちらは問題ありません」
高志はその言葉を聞いて安心した。
やはり高額なバイトには裏がある……。
高志はそう思いながら、バイトを辞退させてもらおうと口を開く。
「そうですか……なら……」
「もしもお嬢様がお喜びになれば、給与は倍になりますが……」
「やります!」
しまった……。
高志は言った後に気がつき、後悔した。
金が必要なあまり、高志は少しばかり金に貪欲になっていた。
「そうですか、それではもう少々こちらでお待ち下さい。準備が出来次第お呼びします」
そう言って伊吹は部屋を出て行った。
「し、しまった……」
高志は頭を抱え、強欲な自分を恨んだ。
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