第16話 魔術師
光の剣の奔流を受けて、線路も電車も何もかもが吹き飛び、砂埃が舞う。
そして、砂埃が晴れた先には、セイランがうつ伏せに気絶していた。
それを視界に収めて、仰向けに倒れ込む。
緊張の糸が切れて、一気に弛緩する。
身体はもう一ミリも動かせないほど疲れているのに、意識は恐ろしいくらい先鋭化している。
目には満月と頬に舞い散る満開の夜桜があった。
その光景を激闘のご褒美に楽しんでいると、俺の視界の端にセラフが入り込む。
「お疲れさま。お互いボロボロだね」
「ああ、でもなんだか気持ちがいいや」
「あはは………………ねぇ、ハギト。私を受け入れてくれてありがとう」
「なんだ急に改まって」
「べつにただ言いたかっただけ」
セラフも俺の隣に仰向けに倒れ込んだ。
それを一人の女子生徒が見ていた。
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時間は体力•身体測定まで遡る。
私はその日もいつも通り、無関心に淡々と学校生活を送っていた。
機械のように同じ時間同じ行動を繰り返す。
声をかけられても、幾通りある語彙の中から一つを発しているだけ………………………まぁ最近は「うるさい」「死ね」「誰?」しか使ってない気がするが。
兎にも角にも、私の興味関心は暗い闇の世界にしかないのだ。
陽の当たる世界にはない。
その筈だった。
その時までは。
ある夜、私は一人の修道女と戦う二人の男女を見た。
あの憎き修道女は知っている。
顔見知りではないが、あの修道女は私のいる世界では悪い意味で有名人だ。
私のような人種の天敵だからだ。
おそらく、皆が出来るのなら、八つ裂きにして火炙りにしてやりたいと考えるだろう。
問題は二人組の男だ。
男は決して強くなかった。
一応、護身術の心得はあるようだったが、それも憎き修道女には敵わない。
しかし、目を引くものがあった。
それは男の胸のうちで今なお動き続ける心臓。
あの心臓は超弩級の途轍もない神秘だと、自身に流れる血と血の滲むような努力で培った経験、そして松果体の中で月のように静かに光る魂が、私に一瞬で理解させたられた。
それこそ、神秘のレベルはミレニアムレベルだろう。
「ほしい」
草木に隠れながら、そう思った。
単純かつ熱烈な欲求。
男を除いてあの心臓を持つものは人類史において、未だ存在しないだろう。
興味を抱いた。
男の顔はここ最近で見覚えがあった。
登校するバスで話しかけてきた男。
幸いなことに獲物は、私の近くにいた。
それから私は使い魔を放ち、男を観察していた。
男の名前は菊間羽祇杜といった。
どうやら菊間は天使を保護しており、しかも教会のあのベルギッタに目をつけられいていた。
正直、菊間が教会に殺されるか掠め取られるかするんじゃないかと気が気じゃなかった。
数日が経ち、私は菊間と一対一で接触する僅かな時間を得た。
とっていても会話ではなく、文字通りの接触。
菊間から血を採取した。
それを家に持ち帰り、秘密の部屋で調べたところ、地球から姿を消した精霊のものだと知った。
「まさか、精霊の心臓!?」
私は大層驚いた。
まさかここまでの代物だったとは。
ますます菊間羽祇杜を欲しいと思った。
そしていま、修道女との戦いが決着したのを陰から覗き見ていた。
予想通り………いや予想を遥かに超える神秘。
菊間の血を我が静海の血へと取り込むことが出来れば、我が静海家の悲願へと大きく近づくことが出来る。
「うふふふふふ」
私は陰の中で、ほくそ笑む。
救星姫 依澄 伊織 @koujianchang
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