第9話 幸せな時間の終わり。悪夢の再来
そして宿屋のアイリスと比呂貴の部屋。これはこれで異色の組み合わせになった。
二人はもう寝る準備が終わり布団にくるまっていた。
『うっ、あんまり会話が無かったなあ。でもまあ、不機嫌そうじゃなかったからその点は良いけど、でもなんだろう、複雑な心境………。』
比呂貴がそう思っていたらアイリスの方から話しかけてきた。
「ロキ、まだ起きてる?」
「えっ、うん。起きてるよ。どうしたの急に?」
「うん。せっかくこの機会なんで言っておこうと思って。」
「え? なになに改まっちゃって?」
「ロキは人族の男だし、その点はまだちょっと引っかかりはあるんだけど、でも、ロキに対しては嫌いとかそんなのはもう無いから。
お姉ちゃんの件は本当に感謝してるんだ。あの時にわだかまりを取ってくれたから今こうしてお姉ちゃんと楽しい時間を過ごせてるから。
お姉ちゃんからの信頼も厚いし、私もそれなりに信頼しているから。だからこれからもよろしくね。」
「うん。もちろんだよ! 任せて!」
即答する比呂貴。
即答後、ちょっと反芻する間を取って比呂貴は思う。
『うわあ。確かに以前よりは嫌悪感とかは無くなってるなって思ってたけど、まさかアイリスにそんなこと言って貰えるなんて夢にも思わなかった。
あああ。どうしよう。めっちゃ嬉しい!
これはレイムが消えるっていうその気持ちがわかるよ。本当に嬉しい。』
一方、ファテマとレイムはと言うと。こちらも、もう寝る前で二人は布団にくるまっている。
そんな中、ファテマが言う。
「レイムよ。起きておるか?」
「うん。起きてるよ。どうしたのファテマちゃん?」
「いや、せっかくのこの機会じゃからな。改めてお礼をさせて貰いたいと思ってな。」
「え? え? どうしたの?
わたし、そんなお礼されるようなことしたっけ?」
「アイリの件じゃ。もちろん、ロキにも多大な感謝はしておるが、レイムも同じくらい感謝しておる。
ロキからは聞いていると思うが、ずっと離れ離れに住んでおったり、このドラゴン騒動でアイリはかなり塞ぎこんでおったように思えるじゃよ。
先ほどもアイリはあんなに大声で笑っておったじゃろう。ここ数日のアイリは本当に良くしゃべるし良く笑うようになった。これはレイムのそのキャラのお陰じゃと思うんじゃ。
儂も含めて今は本当に楽しいと思っておる。だから感謝しておるんじゃ。レイムよ。本当にありがとうな。」
「あわわわわわわ!
何言ってるのよファテマちゃん。私なんてポンコツでそんな大したことしてないよ。なんというか、アイリスちゃんが好きで自由にやってるだけじゃん。そんな改まって感謝されることじゃないよう。」
「フフフ。それは違うな。その打算のない振る舞いがみんなの心を掴んでいると思うぞ。レイムは本当に良い子じゃと思っておるよ。」
「うわぁぁ。ファテマちゃんこれ以上はやめて! 私褒められるのなんて滅多に無いからなんだかくすぐったくてゴワゴワしちゃうよ!」
翌日。
宿をチェックアウトして四人は祭りのところまで歩いて来て出店で朝食をしていた。
「で、今日はどうしよう?
昨日は祭りとお城を満喫したし、祭りは置いといてなんか別の観光スポット的なところに行くのはどうかなって思うんだけど?」
比呂貴がみんなに提案する。
「ふむふむ。悪くない考えじゃ。」
比呂貴の提案に目を輝かせて答えるファテマである。
「じゃあ、どこかで観光スポットの情報を集めないとね。」
とレイムが言ったときである。
『ビュゥゥゥーーーー!』
突然、轟音と共に突風が吹いた。祭りにいた者たちはなんだなんだという感じで周りを確認している。
そう。楽しい時間、普通の日常というのは得てして一瞬で崩れ去ってしまうものである。ファテマとアイリスはそれを嫌というほど繰り返し体験してきたのにこの瞬間まで忘れていた。
それまでに、この数日の出来事はかけがえのない時間であった。
もう一度言う。楽しい時間は得てして一瞬で崩れ去る。かけがえのない楽しかった時間はこの瞬間終わりを告げた。
『キャシャァァーーー!』
レッドドラゴンが奇声を挙げる。しかも良く見ると二体もいる。
比呂貴がこの世界に来て最初にファテマと会話していた通りなのだが、ドラゴンはこの世界において最強の生物のひとつである。幼体のドラゴンといえど、まともに戦えるのは上級魔族クラス以上であろう。
そんなドラゴンが二体、首都エンデルにやってきた。エンデルにとっても建国以来の大災難であろう。
ドラゴン二体はファイアボールを打ち込んで来たり、ファイアブレスを放ってくる。街の一部はすでに火の海と化している。また、建物も倒壊している。
そして逃げ惑う人や亜人・モンスターたち、次々とドラゴンの犠牲になっていく。
さらにタイミングが悪いことに今は祭りの最中でたくさんの人や亜人、モンスターが行き来していることもあり、それがドラゴンの犠牲をより大きくしていた。
そんなドラゴンのお目当てはやはりアイリスであろう。
いや、もしかしたら前回追い払ったドラゴンかもしれない。ドラゴンの気性がとても荒く周りに八つ当たりをしているようにも感じる。
ひとつ間違いなさそうなのは、ドラゴンはファテマとアイリスを狙って来ていることである。
「うわぁ。またドラゴンかよ。ホントのマジもんでしつこいなあ。」
比呂貴が言う。それにファテマが応じる。
「そうじゃったわ。ドラゴンに追われていることをすっかり忘れておったわ。」
「ひぇぇぇ。ドラゴンに追われているってホントのホントだったのね。私、真っ先に養分になっちゃいそうだよう。」
レイムが涙目で答えた。
「で、ロキよ。どうする?
恐らく彼奴等(きゃつら)の狙いは儂とアイリスじゃろうて。我らがここにおっては街の被害が大きくなるだけじゃ。」
ファテマが比呂貴に尋ねる。
「確かにその通りだね。あのドラゴンたちは間違いなくアイリスとファテマを狙ってそうなのは見てわかる。
いやー、オレも対ドラゴンの戦闘をシミュレーションしているし、魔法も練習しているんだけど、まだまだ弱点だらけなんだよなあ。」
四人は逃げつつ、そして比呂貴は答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます