第9話 レイムのトラウマの解消

 そしてモンルード公爵はキャラに背かない、あえてやっているのではなかろうかと思われるくらいのお約束な感じで、それはもう下品にレイムに言う。

「昔はあんなに可愛がってやったというのに、いつの間にかいなくなりよってからに。まあ、しばらくはこの辺で冒険者をしているということだったみたいなんで棄て置いたんだが、今度は本当にどこかに行方をくらましよってからに。しばらくは探しておったんだぞ!


 まあ、今からでも戻ってくるというんであれば、また昔のように可愛がってやるぞ。うむ。今はいろんなところが成長しておるからなあ。楽しみ方も増えるというものじゃ。

 それと、急にいなくなったから。お仕置きもしてやらんとな。


 ゲーーーッハッハッハッ!」


『もう、外見だけじゃなくてお約束で吐き出す言葉もそりゃあ汚いもんだわ。レイムやアイリスの言う通り、この世界の人間ってほんとにこんなんばっかなのかもね。

 同じ人間として究極に恥ずかしいよ………。』

 比呂貴はモンルード公爵を見て思っていた。


「えええ。嫌よ。お断りします!」

「ほほう。そんなことを言っても良いのかね?

 どうせお前のことだ。あちこちに行っては迷惑をまき散らし、で、結局のところみんなに見捨てられるってことを繰り返しておったのだろう?」

「ぐぬぬぅ! 確かにほぼ当たってるからぐうの音も出ない。」


「ほれほれ。儂ならお主がどんなに変なことをしても庇ってやれるぞ。お主への愛なのでな!

 まあ、失敗した時はそれなりのお仕置きはせねばならんがな。成長したレイムにはいろいろとお仕置きのバリエーションが広がりそうだな。

 ハッハッハ!」

「うわあ。マジでゲスイわ!

 ほんと、幼かった私にそれはもう酷い辱めをしてくれたわよね。今の小さい子には絶対に見せられないわよ。」


「何を言っておるか。別に暴力は振るっておらんであろう?

 儂も痛いのは嫌だし、レイムの綺麗な肌に傷が付くのは耐えられんからな。」

「うわぁ。マジでキモいよ。

 ってか、どっちにしても無理だし。今は私、ここにいるロキと付き合ってるの。それはもうラブラブちゅっちゅなんだからね!」

 そう言ってレイムは敢えて胸を押し付けるようにして比呂貴の腕をギューっと掴んだ。


『ちょっ、レイムさん。ラブラブちゅっちゅってどこの国のいつの言葉だよ!

 そんなのオレも伝説でしか知らんぞ? 昭和か? 昭和なのか?』


「ってか、本当かのう? そのラブラブちゅっちゅ感がぜんぜん感じられんのだが?」

「え!? いや、だってしょうがないじゃん。まだ付き合って間もないんだもん。」


『付き合ってって、ぶっちゃけ昨日会ったばっかりだよね?

 ってか、二日しか経ってないんだな。そう言う意味ではかなり打ち解けているね。』


「あ、でもでもね、昨日の宿屋でロキとそれはもう腰が砕けちゃうまですっごいハードなプレイをしちゃったんだからね!

 それはもうロキのテクが凄くって、私なんかヘロヘロにされちゃったんだから!」

(注:ただのマッサージです。)


「なんだと!?

 ええい! 四の五の言うでない。ほれ行くぞ!」

 公爵は付き人の数人に命令を出し、付き人達はレイムを引っ張っていこうとする。

「えっ、嫌よ。離してよ!」

 レイムも必死に抵抗をしようとする。

 そんなやりとりの中、ようやく比呂貴のターンである。


「はいはーーい。そこまで!」

 比呂貴はそう言って、レイムから公爵の付き人を振り払う。その後も引き続き言葉を続ける。

「もう、さっきから何なのよ?

 公爵さん。こんなサキュバスの女の子ひとり手懐けられないなんてぜんぜん大したこと無いよね?

 それにラブラブちゅっちゅ感が足りないって言ってたな? ぜんぜんそんな事無いぞ?」


 そう言って比呂貴はレイムを抱き寄せて、自分の唇にレイムの唇を重ね合わせる。それはもう濃厚に。

 ジタバタしながら湯気を出しているレイムであったが、数秒後、比呂貴は公爵の方を見てドヤッと決めた。


「なっ、貴様! もう許さんぞ!」

 そう言って公爵と付き人は比呂貴に襲い掛かってきた。比呂貴はひらりとかわしつつ腕を振り上げ風の魔法を使う。かまいたちを含めて。

 公爵と付き人達の服が破ける。

「こんな大通りの中だと、そんな恰好じゃ笑われますよ。しかもこんな多勢に無勢。公爵の評判にも傷が付いちゃいますね?

 どうしちゃいますか?」

 セリフを決め、そしてニヤリとする比呂貴である。


「ぐぬぬぬぅ!

 とりあえず、馬車から代わりの服を取ってこい!」

 公爵は付き人に命令を出す。

「よし、今だ逃げろ!」

 そう言って比呂貴はレイムの手を引っ張り広場から逃げ出していった。

 比呂貴たちは冒険者登録場まで逃げてきた。どうやら公爵たちは追ってこないようである。


「ちょっと、ロキ! なかなかやるじゃん!」

『しかも、あんな激しいチュウまでしちゃって。ちょっと惚れてしまいそうになったじゃない。』

 レイムはそう言いながら、心の中でも思っていた。

「ははは。愉快痛快だったな!

 いやー、異世界に来て、みんながやるようなカッコつけたこと、オレもこんなにベタにやるなんて思わなかったわ。

 いやー、ホントに楽しかったわ!」


「うんうん。私も楽しかったわよ。積年の恨みがすーーっと消えていったわ!」

「ちなみに、あの貴族ってどれくらい偉いんだ?

 場合によっちゃあ、しばらくこの国には来ない方が良いね。」

「そりゃあ、公爵なんだから相当偉いわよ? ご近所であの人に逆らっている人を見たこと無いわね。」

「まっ、マジか? じゃあ、冒険者登録と本屋さん寄ったらすぐにでも帰るか?」

「うん。そうね。私もそろそろアイリスちゃん成分が足りなくなってきたわ!」


 とりあえず、比呂貴の冒険者登録が完了していたのでプレートを受け取るのと、その際に本屋さんの場所を確認した比呂貴。要件をさっさと済ませて宿に戻った。

 そして、例の公爵から何らかの仕返しがある前に、翌日の定期便でファテマとアイリスが待つ街へ帰っていったのであった。


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