第14話 ファテマとアイリス

「とまあ、こんなことがあったわけじゃ。」

「なっ、なるほどねえ。」

「なっ? 簡単ではないんじゃよ。わかるであろう?」

「うん。確かにね。問題の本質はちょっと置いといて、話のスケールは山より高く、海より深いよ。半端ないね………。

 ちょっとその辺は舐めていたよ。すんません。」

 ファテマと比呂貴が会話をして、その後、比呂貴はボソッと謝る。


『しかし、ファテマさん。この手の問題って結局正解は無いやつだよ。これはお互いに答えを出していくしかない。

 まあ、口に出したら問題の半分は解決したようなもんとも言うし、恐らく二人とも答えは持ってるんじゃないかな?』

 比呂貴はそう思いながら引き続きファテマとアイリスを見守ることにする。


「で、アイリよ。

 儂は最初お主を避けておったんじゃ。アイリはこんなにも無邪気に儂のことを慕ってくれておったというのに………。

 あまつさえ、ダークエルフのリーダーがアイリを連れていくときに、儂は自分可愛さに見放してしまったのじゃぞ?

 それを今さらどの面下げて会えば良いんじゃ?」


「そりゃあ、お姉ちゃんが怒っているのも、めちゃくちゃ傷ついているのもわかるよ。私のパパがお姉ちゃんのパパを殺したようなもんじゃん。

 確かに当時の私はお姉ちゃんの事情は良く分かってなかったけどね………。

 だったらお姉ちゃん。パパの代わりに私に酷い事をしたら良いよ。お姉ちゃんに酷い事をされるなら私は平気だから!

 その代わり、その後は一緒に仲良くして欲しいよ。」


「バカもん! 何を言っておるか! そんな事、アイリに出来るわけなかろうが!

 それに酷い事というなら、昔に散々しておろうて。儂の行いが幼いアイリに対してどれだけ傷つけてしまっておったか………。

 それこそ儂が謝らなければならんというのに。」


「そりゃあ、確かに当時の私はお姉ちゃんに避けられてるのはちょっと傷ついていたよ。それにダークエルフの村に行くときに一緒に来てくれなかったことも。

 でもそれって、ぜんぜんお姉ちゃん悪くないじゃん! 流石にそれがわからないほどもう子供じゃないよ!

 それに私は嬉しかったよ?

 ドラゴンから逃げるときに手を取ってくれたこと。もし、あの時、断られたらどうしようって思ってたもん。」


「そんなの当たり前じゃ! あの時は無意識じゃったがアイリを連れて逃げることしか頭は無かったわい!

 それでも儂はお姉ちゃんなのにアイリを傷つけてしまった事実に変わりはない。それでも許してくれるというのか?」


「許すも何も最初からちっちも怒ってないよ!

 だって、お姉ちゃんが大好きなんだもん。私にもなんでこんなに好きなのかわからないよ。

 それを言ったら、私だってパパのしたことは絶対に許されるはずなんて無いよ?

 こっちのほうが絶対に償う方法なんて無いよ。私はどうしたら許されるの?」


「馬鹿者!

 それこそ、全くもってアイリとは関係ないじゃろうが!

 確かに子供のしでかしたことは親にも一部責任がある場合はあるが、親のしたことに対して子供に責任を課してしまったら悪政の始まりじゃ!

 そんなこと絶対にあってはらなん! 理屈でわかる話じゃ!」


「じゃあ、私は何もしなくて良いの?」

「当たり前じゃ!

 その問題は儂の心の踏ん切りの問題だけじゃ。それもたった今ここで踏ん切りが付いたわい。妹のアイリにここまで言わせておいて、儂はいつまでもうじうじと気にしておってからに………。

 本当に自分が情けなくなってきたわ。」


「いやいや、そんなこと無いよ!

 普通だったら一生の心の傷になってもおかしくない出来事だもん。」

「そうかのう?

 でも、これもアイリのおかげで救われたような気がする。こんなことでうじうじ生きておってもつまらんからな。

 そうだ。これは全部親たちが悪い!」

「そうだそうだ! みんな大人たちが悪いんだ!」


「で、その大人たちも、もうおらん………。

 なので、これからは姉妹ふたり、仲良しで生きていくぞ!

 な? アイリよ?」

「うん。お姉ちゃん!」


『あれ? 確かに感動のシーンなんだけど、思ったのとちょっと斜めの結論になっちゃったな。

 まあ、二人らしい結論なんだろうね。無事に解決できて良かったよ。うん。本当に良かった。

 それにアイリスの笑顔が見られた。それもとびきりの!

 ひまわりのような笑顔ってこういうのをいうんだろうな。そう思ったよ。はあ。可愛い笑顔だなぁ。和むなあ。

 はっ!? これがいわゆる


 萌えぇ!


 と言うやつか?

 長年オタクやってきたんだけど、いまいち『萌え』というのだけは理解できなかったんだよな。ああ、この感情がそれになるのか。今ならそれが良く分かる。

 アイリスたん。萌えぇだわ!』


「ロキよ。ありがとう。

 ドラゴンといい、妹のことといい、ほんとにお主には感謝しかないな。今度なにかお礼をしなくてはな。

 あ、でも尻尾のモフモフはダメじゃからな!」

 ファテマが安堵の笑顔で言ってきた。そしてアイリスも比呂貴に言う。


「まっ。私も一応お礼を言っておくわね。

 でも調子に乗らないでね。今後、私やお姉ちゃんに少しでも変なことしようとしたらすぐに追い出してやるんだからね!」

「わ、わかってるよ!

 でも、本当に良かったね。二人ともわだかまりが解けて。」


『ああ! なんかアイリスが初めてオレとちゃんと会話してくれたような気がする!

 でもまあ、相変わらずツンツンだけどね。』

 そんなことを思う比呂貴であったが、アイリスから向けられる顔にはもう警戒心や不信・嫌悪感といったものは無くなっていた。


「って、そんなこんなしてたらもうお昼じゃん!? 結構話し込んでたね。オレの最初の話に戻りたいんだけどいいかな? すぐに終わらせるよ。」

 比呂貴の言葉に二人は頷いた。比呂貴は話を続ける。

「ちなみにファテマが行きたい王国って連合の方だよね?」

「そうじゃな。千年王国と名高い連合王国じゃ。」


「うん。まあ、オレもそれは行きたいんだけど、今回は別の方の王国。えっと、ドルクマンだっけかな? そっちに行ってくる。とりあえずは一人で。

 さっきも言ったけど、文字の資料と仕事について確認してくるだけだから三,四日で帰ってくる。それまでは二人で積もる話でもしてなよ!

 そんで、その後はゆっくりと連合王国を、今度はみんなで一緒に行こうよ!」


「なるほど。儂はそれで良いぞ。アイリはどうする?」

「そうね。私もお姉ちゃんと一緒なら人族の国に行くのも悪くないかもね。」

 二人は答えた。

「よし。じゃあ、それで決まりだ!

 オレは今日、この街でいろいろ準備して明日にでも出発するね。」


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