第2話 テストの前に宿屋のオーナー兼情報屋のダン
翌朝。
「ムクリ。
腹減った。でも一文無し。お金無いってなんてひもじいんだ………。
とりあえず、ファテマさんのところへ行ってお金借りよう。ってかお金稼ぐためにも情報集めなきゃだな。」
『コンコン!』
「はーい。」
軽快な声と共にドアが開く。声の主はアイリスだった。
アイリスはドアを開け、比呂貴だとわかると明らかに不機嫌になった。
『くっ。相変わらず厳しい反応だなぁ。くじけそう。でも負けてはいられん。笑顔笑顔!』
「おはよう。アイリス! ファテマは?」
「お姉ちゃんはまだ寝てます。」
「そっか。困ったな。朝食を食べたいのと色々と買い物に行きたかったからお金を借りようと思ったんだけど。
うーん。どうすっかな………。」
そう言って困っている比呂貴をチラッと見て、
「ちょっと待ってください。」
アイリスは一言だけ呟いて部屋に戻っていった。
戻ってきたアイリスは銀貨を三枚比呂貴に渡して一言添える。
「たぶん、それで大丈夫だと思います。」
それだけ言ってドアを閉めた。
『うーん。相変わらず不機嫌なのは厳しいが、でも、なんだかんだで必要最低限は対応してくれるんだ。本質的に悪い子じゃないんだな。そう思うと少し気が楽になる。
あと、声がとても可愛い! 可愛いのに不機嫌なトーンだからとても怖いよ。早く普通にしゃべってくれるように頑張んないと!』
「さて、まずは朝食か。」
『あと、銀貨3枚渡されたけど、これがどれくらいの価値なんだろうか………。
オレは一応、海外出張経験豊富なんで、日本人根性丸出しで行くと良いカモにされるのは散々経験したからな。
価格交渉とかちゃんとやんなきゃだな。うわー。なんかこの感覚懐かしい。やっぱり商社マンだわ。オレは。
この世界でも仕事は商社マンの経験を生かしつつ、やっぱり異世界でモンスターとかもいるんだから冒険者とかやりたいよな。』
そして比呂貴は宿屋のフロントに行く。早速一つ問題が発生した。
『うっ。字が読めん!』
『ファテマやアイリスと普通に『日本語で』会話してたから気が付かなかったけど、考えたらそれがおかしいことで、異世界に来ているんだから当然と言えば当然だよな。
やっぱり異世界なんだな。ここ。今完全に認識したよ。くそ。どうしようか。』
「兄ちゃん。お困りかい?」
フロントから男の声が聞こえてきた。
『うっ。しまった。
途方に暮れてたらよそ者ってバレバレじゃないか。素人丸出しだわ。気を付けなきゃだよ。』
比呂貴はそう思いながらもフロントの方を振り向く。
そこにはなかなかに恰幅(かっぷく)の良い亜人と思われる男がいた。
「おいおい。そんな警戒心丸出しにしなくても取って食いやしないよ。兄ちゃんってあのハーフの子の連れだろ?
あのユニコーンとダークエルフの?」
「えっ。まあ。」
「彼女は上玉のお客様だからね。そのお連れ様なら協力しないとな。」
「そりゃあどうも………。
しかし、情報提供に伴う報酬は出せんよ? 金があんまり無いんだよ。」
「いやいや、そんなのはいらんよ。そりゃあ、あれば嬉しいがね。
でもまあ、オレとの会話が役に立ったっていうんなら将来なんかくれたら良いよ。特に人族相手は信用が第一だからね。まずはそれを勝ち取るのさ。
特に兄ちゃんみたいなのはさ!」
「ん? それってどういう意味だよ。早速わからん。」
「オレは訳あり大歓迎で商売してんだよね。危険もあるが、たまに凄いリターンもあるからなあ。」
「おいおい。おっさんよ。いきなりそのセリフだとオレを訳ありって言ってるようなもんじゃないか?
もしくはあのハーフの女の子のことかな。まずはそこから聞かせて貰おうか?」
「おっ? いいねえ。流石は人族だ。これだけしかしゃべってないのにそこまで察するなんてよ。そういうのは大好きだぜ!
まあ、飯でも食いながら話そうか。朝飯まだだろ? あ、飯代は頂くけどな。」
「うーん。そうだな。ちょうど腹も減って飯屋を探そうとしてたからちょうど良いよ。まあ、朝食代も情報料の一部って感じだよな。
いくらだよ?」
「ガハハ。まあそんなところで銅貨3枚だ。どちらの国の通貨でも良いぜ。あと金目の現物でも良い。まあ、現物の場合はちょっと手数料貰うがな。」
「どちらの国の通貨って、これは大丈夫なのか?」
そう言って比呂貴は先ほどアイリスに貰った銀貨を見せた。
「ああ。十分だぜ。一枚よこしな。釣りと飯を持ってくる。」
そう言って亜人のフロントマン?は比呂貴から銀貨一枚を貰い店の奥へ入っていく。
3分後くらいに先ほどの亜人は現れた。
普通にトーストと卵とサラダ。それにドリンクのセットが出てきた。あと、釣りとして銅貨が七枚貰った。
『これだけでレートもだいたい把握できた。気になるのは『両方の通貨』ってところだが、それはまた後にしよう。』
比呂貴は頂ますのポーズをとり食事を始める。そして亜人は話を始めた。
「まずは、改めて自己紹介でもしようか。オレはダンって言うんだ。この宿屋のオーナー兼フロントマンだ。
あとまあ、訳ありに首を突っ込んだりしてるから情報屋の真似事もしてるって感じだ。」
「あ、丁寧にどうも。オレは比呂貴。みんなにはロキって呼ばれている。」
ふたりは軽く名乗り、ダンと名乗った亜人の男は話を続ける。
「まず、人族が珍しいんだよ。最近この地域は軍隊さんと役人しか人族はいないからな。まあ、商人もいるにはいるが、それもだいたい顔ぶれは一緒だ。見たところどれでも無さそうだし、そうなるとなんか訳ありってことじゃね?
それに、あのユニコーンのお嬢さんとハーフのお嬢さん。ユニコーンなんてなかなか見れるもんじゃない。さらにハーフの子なんてな。オレは初めて見たよ。
その子たちも第一級の訳ありなんだよな。そんな子たちと一緒にいる人族だ。そりゃあもう特別級の訳ありだろ?
特別級の訳ありが向こうからこの宿に泊まっているんだぜ。それに首を突っ込まないでどうするよ? 訳あり大歓迎の看板が泣くぜ!」
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