幼年期

第3話 あぶのうございます、お嬢様

 眠っては起きて泣いて、お乳をもらってはまた眠る。

 赤子の日常はその繰り返しです。

 それを毎日眺めつづけるのが、わたくしの仕事、でしょうか。二十四時間の厳重監視です。とはいえ、幽霊なので何かあっても手も足も出ませんが。

 肉体がないためなのか、眠くなることも、疲れることもありません。

 わたくしに憑かれているのはお嬢様の方ですが。


 そんな日々が続き、タニアお嬢様も徐々に成長なされました。最近では、母親のソフィア様にあやされると、笑ったりもします。天使の笑みですね、癒されます。

 そういえば、旦那様の名前はハリスのようです。毎朝、やたらと飾りのついた服を着て現れ、奥様とお嬢様にキスをして出かけます。夕刻には戻って来るので、定時で帰れるお仕事のようです。

 お嬢様の大きな変化は、時々、わたくしの方をじっと見つめてくることです。もしかしたら、わたくしが見えるのかもしれません。ご両親や他の女中には見えていないようなので、やはりお嬢様とは特別なつながりがあるのでしょう。


 やがてお嬢様も大きくなられ、這い這いを始められました。

 奥様の育児は、この部屋の中なら自由にさせる方針のようです。なので、お嬢様は元気よく這い這いし、それに引きずられてわたくしも移動します。

 しかしその日は、たまたま部屋の扉が開いておりましたので、奥様が目を離したすきに、お嬢様は部屋の外に出てしまったのです。


 ……お嬢様、危ないですよ。


 すると、お嬢様はこちらを見上げました。

 声が聞こえたのでしょうか?

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