第5話 アイテム発見


 ジークハルトが夜ベッドに横たわるとき変な音に気がついた。


――ゴトン


「ん、なんだ?」


 ベッドに横たわった瞬間に聞こえた。不思議に思ってマットを捲ってみるとマットの下に短剣が置いてあった。

 なぜこんなものが置いてあるんだ? 一体誰がこれを……。


 ここへ来てからもともと着けていた装備は全て取り上げられ、武器類は一切持たされていない。折角だからこの短剣は携帯させてもらおう。

 短剣をベルトの内側へ隠す。

 そしてこれは針金と薬? 短剣に気を取られて気づかなかったがその傍に太めの針金と薬が置いてあった。この薬は何の薬だ? 薬の包みに書いてあった名前は強力な睡眠薬の名前だった。

 これらを置いた人物は何を想定して置いたのか。悪意がないことだけは確かだが。


 その人物について考えてみる。今のところこの部屋へ入ってくるのは3人。クラウディア、デリア、ヘラだ。クラウディアはないとして、残りの二人のうちのどちらかが置いたのだろうか。

 ただ絶対に他の人物が入る可能性がないとは言い切れないので何とも言えない。ただこの2人のうちのどちらかが味方だとしたらとても助かる。一体どっちだろう。


 そのときコンコンとノックの音が響き声がかかる。


「ヘラです。お着替えをお持ちしました」

「どうぞ、入って」


 三つ編みの侍女が扉を開けて入ってくる。手には洗い立てのシャツとトラウザを持っていた。


「お着替えをお手伝いしましょうか?」

「いや、着替えは後でやるよ。君に聞きたいことがあってね」


 敵か味方か分かるまでは短剣のことには触れないほうがいいだろう。昨日デリアにしたようにヘラ自身のことを尋ねてみる。


「なんでしょう?」


 彼女が首を傾げながら尋ねる。


「君はこの国で育ったのか?」

「はい、そうです」


 この国の歴史はまだ浅い。20年ほど前に旧ゲルリッツ王国が滅び新しい統治者がこのマインツ国を作った。

 一応統治者はマインツ王を名乗ってはいるがもともとはこの国の金の流れを支配するほどの豪商だったらしい。


 旧貴族はほとんど解体され、現貴族は金で爵位を買った者がほとんどだ。まさに商人の国といった感じだ。金が権力という構図が分かりやすいと言えば分かりやすい。

 だが治安が乱れないように汚れた金には厳しい。法もきっちり整備されており、違法薬物の取引きや不正な賄賂の授受なども固く禁止されている。勿論ダウム貿易商会が行っていた密輸などもご法度だ。


「じゃあ君はこの国の貴族なのか?」

「いえ、私は違います。ジークハルト様、こちらに寝酒を置いておきますのでどうぞお召し上がりください」

「あ、ああ、ありがとう」

「それでは失礼いたします」


 テーブルの上に酒とグラスのセットを置いたあと、早々にヘラは部屋から出ていった。あまり彼女について聞けなかったな。


「寝酒か……」


 デカンタの酒をグラスに注ぎその匂いを嗅ぐ。それに若干の違和感を感じる。甘いような埃のような匂いがする。


「これは媚薬か……? 今晩来ますよってことか?」


 この薬はヘラが入れたのだろうか。いや、そうとは限らないか。厨房で混入されたものを持ってきただけかもしれない。

 さてどう凌ぐか。こんなもの恐ろしくて飲めるわけがない。

 以前のジークハルトなら女性の誘いを断ることなどなかったのだが、今はフローラに対して後ろめたいことなどしたくない。


 あらかじめ厨房から自分で飲むために拝借していた果実酒の瓶をクローゼットから取り出し自分のグラスにたっぷりとそれを注ぐ。

 ヘラが持ってきた媚薬入りの酒を捨てたあと、空になったデカンタに自分の果実酒を3分の1ほど移しておいた。そしてその中に例の睡眠薬を溶かしておく。


 恐らく今夜クラウディアが来る。ソファに座りグラスの酒を煽り少し酩酊した振りをしながら背凭れにぐったりと体重をかける。まるで媚薬の酒を飲んでしまったと言わんばかりに襟元を乱す。そして彼女を待った。


 しばらくしたあとノックの音が響く。


「ジークハルト様、お酒をご一緒させていただいてよろしいかしら」


 どうせ強制するくせに尋ねる必要などあるのか。


「どうぞ」


 返事をすると体の線が表れるほど薄手の寝衣に身を包んだクラウディアが入ってきた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る