第7話 アップルと神様

「さようなら。私の家族。全て終わった。」

 アップルは家族を食べ尽くした。

「そんなに悲しそうな顔をしないで。アップルには私がいるから。」

 立ち尽くすアップルの表情は悲しいのか達成感で満ち溢れていたのか分からない無表情だった。

「大丈夫よ。そうね。終わりじゃない。これからが私の人生の始まりよ!」

「そうだよ! 私たちの始まりだ!」

 一人なら泣いて落ち込みそうな時でも、アップルはジュライと二人なら前向きになれる。

「人間って、不思議だね。」

「どうして?」

「自由意志を持つということは、こんなにも素晴らしいのに、どうして人間は人間に生まれたことに感謝しないのだろう? どうして他人を傷つけるんだろう? 同じ人間なのに。」

「自分が1番大切だからよ。自分が努力しても手に入らないものを他人が持っているのが許せない。自分が手に入れたいものを他人が持っているのが許せない。人間は自分と他人を比べたがる弱い生き物なのよ。」

「なんだか、悲しいね。」

「もっと人間は悲しいわよ。負けた人間は、他人をいじめる。他人を追い出せば、自分が手に入れることを知っているから。」

「それじゃあ、人間じゃなくて悪魔だよ!?」

「私はそういう人たちに笑顔を奪われてきたから分かるわ。本当に人の姿をした悪魔よ。」

 アップルは、家族や友達の顔を思い出しながら話す。

「でも、アップルは私の友達で、天使のような人間だよ。」

「ありがとう。」

 神の使徒が人間に気づかいアタフタする。

「どうして神様は人間に感情を与えたのだろう? 感情が無ければ、自分と他人を比べて争うことも無かったのに。」

「きっと、笑ったり、怒ったり、悲しんだり、楽しんだり、良い事も悪い事も二人で分かち合うためじゃないかな。私とアップルのように。」

「アッハハハハ!」

 ジュライの話を聞いて、その純粋さにアップルは笑いを抑えることができない。

「どうして笑うのさ!?」

「ごめん、ごめん。あんまりにもジュライがいい子だから。」

「私は、ただ神様の描いた人間の姿を言っているだけだよ。」

「神様って、きっと人間を信じていたのね。それなのに人間は汚れてしまった。」

「それは、まだ私には分からない。だってアップルに出会えたから。」

「ジュライ。」

「だから私はアップルを、人間を信じたい。」

 いちいちジュライの言葉に胸がキュンキュンするアップル。

「ああ~面白くないな。ジュライが男だったら、私の彼氏にして、白いウエディングドレスを着て結婚するのにな。」

「アップル。」

 ただのチェスの駒だった物が、命ある人間から愛の告白をされる。

「ハアハア、ドキドキ。」

 ジュライには、人の感情というものが、まだ理解できない。どうして呼吸は荒くなり、心臓の鼓動は早くドキドキするのか。

「私は人間になりたい! 人間の男になって、アップルと結婚する!」

 アップルは思った。この人食い鎧騎士は、どこから私を喜ばせることを言い続けらるのだろう、と。

「どうやって?」

「それは神様に聞いてよ。」

 嬉しいけれど、アップルは少しジュライをいじめてみた。

「ねえねえ、ジュライ。神様って、どんな人?」

「神様? 神様は人間でいうと年寄りの病弱なおじいちゃんだよ。」

「神様って、病弱なおじいちゃんだったの!?」

「うん。ちょっと性格が変わっていてね。自分の人生が終わろうとしている時に、今まで神として見て見ぬふりをしてきたけど、耐えることができなくなって、いつもケンカばかりしている人間に嫌気がさし、私たち12人の神の使徒に言いました。「多く人間の数を減らした者を、次の神様にしてやる。」だって。」

「なんと迷惑な神様!? 死ぬ間際は神ではなく、人間みたいね。」

「私は、神になりたい! 世界を滅ぼそうとする人間を倒して、私とアップルが平和に暮らせる世界を作るんだ!」

「なら私は神様の花嫁か。」

「嫌かい?」

「いいえ。あなたの花嫁になれるなら、喜んで人間でも食べるわ。」

「アップル。」

「ジュライ。」

 アップルとジュライは愛を確かめ合うように抱き合う。


 話は、アップルが母親のブルーベリーを食べて、真っ赤に染まった部屋で立ち尽くしている所から始まる。

「これは!?」

「キャアアアー!?」

 お城の執事たちが部屋に入って来て、この世の物とは思えない血の地獄絵図を見る。

「アップル様!?」 

 血塗れの鎧騎士のアップルが立っているのを執事たちが見つめる。

「国王、王妃、王女、王子は化け物に殺されました。」

「なんですと!?」

「このフルーツ家はどうなるんだ!?」

「ですが、その化け物は私が倒しました。」

「アップル様が!?」

「私が、この国の女王になります!」

 アップルの新たな人生が始まろうとしていた。

 つづく。

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