第6話 冒険者ギルド 前編


 冒険者ギルドに到着したあとソフィーに手を引かれその建物へ入る。それからセシルは彼女と一緒に中にいた数人の冒険者の間を抜けて奥のカウンターへ進む。そしてどきどきしながら受付の女性に話しかけた。


「こんにちは。ギルドカードを作りたいんですがここでいいですか?」

「はい、こちらで承ります。初めての方ですね。私は受付のレーナと申します。あなたのお名前と年齢と職業をお伺いできますか?」

「名前はセシル。12才。職業は『冒険者』です!」


 初めて自分を冒険者と名乗ったことに軽く興奮する。レーナは微笑みを浮かべながらセシルを見て話を続けた。


「承りました。ではギルドカードをお作りしますのでしばらくお待ちください。その間によければ当冒険者ギルドについてのご説明をさせていただきますが、どうされますか?」

「お、お願いします!」

「かしこまりました。当冒険者ギルドには下の方からFEDCBASとランク分けされています。セシルさんは初めてギルドに入られたのでFランクとなります。そちらの掲示板に、当ギルドに寄せられた依頼をランクごとに貼りだしてあります。ギルドの依頼をこなした回数及び成功率でDランクまでの昇級が審査されます。Cランクからは先の条件に加え昇級試験に合格した場合に昇級が認定されます。ここまでで何かご質問はございますか?」


 一気に説明を受けてちょっと混乱してしまったけど何とか理解できた。ギルドのシステムって複雑なんだね。ランクが上がると何かいいことがあるのかな?


「ありがとうございます、大丈夫です。ところで魔物の素材の買い取りはこのカウンターでいいんですか? 解体してないのもあるんですが」

「魔石などの小さな素材ならこちらで承りますが、解体の必要な物は奥の解体場で承ります。……あ、ギルドカードができたみたいです。カードを先にお渡ししておきますね。解体する物があるのでしたら奥へご案内させていただきます」

「あっ、はい!」


 レーナはそう言ってギルドカードをくれた。あ、解体場へ行く前にソフィーに声をかけないと。


「ソフィー、ちょっと待っててね」

「はい、わたしのことは気にしないでください」


 ソフィーはにっこり笑って答えてくれた。ロビーで待っていてくれるようだ。

 そのあとでギルドの別の男性に案内されて受付カウンターの右側になる広い廊下を抜けて奥の解体場へ向かった。


 解体場は少しひんやりとしていてかなり広い空間が広がる部屋だった。解体場に到着するとスキンヘッドのいかつい男性がこちらを見て声をかけてきた。

 うわぁ、この人もギルドの人なのかな……。ドキドキ。


「俺は解体部のデニスだ。坊主、ギルドカードと持ち込みの獲物を出してくれ」

「はい。セシルです。よろしくお願いします」


(……坊主。まあいっか)


 確かに鏡で見たとき自分でも男の子みたいだと思ったけどさ……。そりゃ凹凸もないけどさ……。

 軽くショックを受けたけど、別に勘違いされたままでも構わない。だからそのことについては特に何も否定しなかった。

 周囲にデニスしかいないのを確かめてから次々に獲物を取り出す。アイテムバッグから大きなものを取り出すと目立ってしまうからだ。


 取り出したのは、グリフォンの嘴・爪・羽×1、ワイルドボア×5、レッドハウンド×22、ポイズンクローラー×7、ブラッドマンキー×7、クレイドレイク×11。


「おいおい、待て待て待て! なんだこの量は。坊主は一体どこから来たんだ? どこでこんな……。というかお前みたいな子供がそんな大容量バッグ……」


 デニスはセシルの行動に驚きと混乱を隠せない。それを見て彼に一言断ってから取り出せばよかったと後悔する。やはり時を止められる大容量のアイテムバッグは一般的ではないようだ。


「あー……ええと、魔の森に何日かいたからそのときに襲われた魔物です。あとデニスさんにお願いがあるんですけどアイテムバッグのことは誰にも言わないでください」

「そうか。……まあ、普通のFランク冒険者は大容量のバッグなんぞ持ってないからな。トラブルに巻き込まれそうだから他のやつには言わないほうがいいだろう。黙っててやるよ」

「ありがとうございます」


 見た目は怖いけどデニスは親切な人みたいだ。これでこれからもここでは遠慮なく獲物を取り出せる。


「しかしこんな子供がこれだけの魔物を狩ってくるとはな……。グリフォンとかBランクの魔物だぞ」


 デニスの言葉を聞いて驚く。魔物にもランクがあるんだ。グリフォンがBランクって強いってことなのかな? 倒し方を知っていればそんなに強い魔物じゃないと思うよ。一度飛んじゃうと倒すのが大変になっちゃうけどね。


「……背後から不意打ちで倒したんです。ワイルドボアはお肉だけ欲しいんですけど全部でいくらになりますか?」

「そうだな。……見た感じ、レッドハウンドは4匹は皮の状態が悪いが、あとはかなり綺麗な状態だな。解体手数料は買い取り金額の2割もらう。内訳だが、


グリフォンの嘴、爪、羽、魔石が合わせて大銀貨22枚

ワイルドボアが1匹大銀貨3枚

レッドハウンドが1匹大銀貨2枚

4匹状態が悪いのが1匹銀貨5枚

ポイズンクローラーが1匹銀貨5枚

ブラッドマンキーが1匹大銀貨2枚

クレイドレイクが1匹大銀貨5枚


グリフォン以外は手数料をもらうとして、肉代を抜いて合わせて大銀貨118枚と銀貨2枚だ。この紙を受付で渡してくれ。今日中に解体するのは無理だから肉は明日の午後以降に取りに来てくれ」

「デニスさん、ありがとうございます。」

「いいってことよ! その代わりといっちゃなんだが、今後も持ち込みよろしくな!」

「はい!」


 デニスはにかっと笑ってそう言うと買取りの明細書を渡してくれた。その明細書を受け取り解体場を後にする。

 いい人だったな。レーナさんも優しそうだしギルドの人はいい人ばかりだな。


 再び廊下を抜け受付カウンターに戻りレーナにその紙を渡す。彼女は明細書を見て目を見開き驚いたようにしばらく固まっていたが、ふと我に返りセシルに尋ねてきた。


「これ、全部あなたが倒したんですか!?」

「はい……あの変でしたか?」


 デニスさんと同じような反応をされてしまった。そんなに変なのかなぁ。あまり目立ちたくないんだけどなぁ……。


「いえ、そんなことは……ごめんなさい、少し驚いて取り乱してしまいました。貴重な素材の売却をありがとうございました。こちらをどうぞ」


 そう言ってレーナが買取りの代金を渡してくれた。はっ、初めてのお金だっ! 初めてのお金に興奮したが恥ずかしいのでなるべく表情に出さないようにする。

 彼女にお礼を言ったあと急いでそれをバッグに入れ、ソフィーに向かって声をかける。大分待たせちゃったかな?


「ソフィー、お待たせ。少し掲示板を見ていってもいい?」

「依頼を受けるんですか? 私がお手伝いできるものがあればいいんですけど……」


 なんだかソフィーはセシルに対して気を遣ってるみたい。何も気にしなくていいのに。どうにかして彼女と友達になりたいな。


「大丈夫だよ、ソフィーはお父さんの傍についててあげて。……あのさ、セシルって呼んでほしい。敬語も使わないで」

「あ、は、はい、あ、うん、分かり…分かった」


 そんなソフィーが可愛くてふふっと笑ってしまった。それからセシルはカウンターから少し離れたところにある掲示板の所へ向かった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る