第4話 森を抜けよう ~4日目~
セシルは朝日が昇る少し前に起床しパンと夕食の残りを食べた。それから野営を片付けて南へ向けて出発した。家を出てもう3日が過ぎていた。まだ魔の森の出口は見えない。早く森を出たいなぁ。
「でも今日は昨日より距離を稼げそう」
食糧確保はしなくていいしパンもまだ十分にある。襲ってくる魔物は倒してとりあえずバッグに突っ込んでいる。大体4日もあれば森を抜けれるっておばあちゃんが言ってたけど魔の森って結構大きかったんだな。
「町ではお金が必要だっていうし到着したらどこかで獲物を換金しよう」
足早に歩きながらふとヴァルブルク王国のことを考える。
おばあちゃんが王国を離れたあと聖女様が選ばれたって言ってたけど、どうしておばあちゃんとおじいちゃんは追われてたんだろう。
おばあちゃんと今の聖女様の違いって何だろう。あ、精霊術は他の人は使えないか。
おじいちゃんが王都にいたとしてどうやっておじいちゃんだって判断すればいいんだろう。おじいちゃんの名前がクロードっていうのは聞いたけど、その情報だけで見つけることができるかなぁ。
次々に沸きあがる疑問と不安を「まあなるようになるか!」と思いっきり投げた。
これからのことは自分の目で見て自分の頭で考えようと心に決める。そして襲ってくる魔物を倒しながらさらに森を南へ進み続ける。
魔物を20匹ばかり倒したところで足を止めた。
「……悲鳴が聞こえる」
遠くで高い悲鳴のような声が聴こえた。嫌な予感がする。
声が聞こえた南の方へ向かって勢いよく駆け出す。
「いや……来ないで……。誰か……助けて……」
『グワルゥ、グルル……』
その現場に20メートルほど近づいたところでようやく状況を理解した。
自分と同じくらいの年頃の茶色の髪を肩程まで伸ばした女の子がレッドハウンドという赤い毛を持つ狼のような形をした魔物に囲まれている。後ずさっていたが後方の木にぶつかりそこでへなへなと座り込む。
狼よりもだいぶ大きいその魔物は涎を垂らしながら彼女の周りをうろうろしている。今にも飛びかかりそうだ。
少女を助けなくては! 目の前の光景を見て強くそう思った。
(1、2、3、…7匹か)
―――ピーーーイ!! ピィ!!!
指笛を鳴らし魔物を自分に注目させた。それを聞いて魔物がこちらを向いたのを確認してまず襲われていた少女に結界を張る。そしてスラリと腰のショートソードを抜く。
そして水の精霊ディーに彼女の護衛を頼んだ。
「ディー、彼女を守ってくれる? わたしはこいつらをやる!」
『まかしとき~』
『キャイン!』『ギャウン!』『ギャンッ!』
そうして残りのレッドハウンドもあっという間に倒した。
少女を守ることができて安堵する。怪我はないだろうか?
全ての魔物を倒し終わったあと彼女を見るとがたがたと震えていた。その顔色は真っ青で今にも気を失いそうだ。辺りには魔物の血の匂いが充満している。慣れていない人にはこの匂いも光景もきついものがあるだろう。急いで魔物の死骸をバッグに片づける。
そのあとそんな彼女を安心させるようにゆっくりと話しかけた。
「あまり大きな傷はないみたいだけど大丈夫? どうしてこんな森の奥に居るの? 一人で来たの?」
物心ついてから初めて出会ったおばあちゃん以外の人間にドキドキしてしまう。
「た、助けてくださってありがとうございます……。私はお父さんがひどい怪我をして帰ってきたから治療するための薬草をこの森へ採りに来ていたんです。入口ではなかなか薬草が見つからなくて、探しているうちにどんどん奥へ入ってしまったみたいで……」
少女はいまだ歯の根が噛み合わないほど震えていたが、なんとか言葉を紡ぐことができた。
「そうだったんだ。薬草の群生地ならわかるよ。外傷に効くやつだよね。(シフ、この辺にありそう?)」
『そう遠くないところにあるよ。私が案内するわ。この子には私たちの姿は見えないから大丈夫よ』
精霊の姿は基本精霊術を行使できるものにしか見えない。
少女の横にしゃがみ込んでその傷を
「え、え……。あなたは治癒士なの?」
治癒士じゃないけど魔法や精霊術のことをあまり大げさには言わないほうがいいよね。
「……うん、まあそんなところ。薬草を採りにいったあとよかったら貴女のお父さんの所へ連れていってくれる? 酷い怪我なら魔法で治療したほうがいいかも。念のために薬草もあったほうがいいけど」
「ありがとうございます……! 私はソフィーっていいます」
ソフィーがとても嬉しそうな顔でお礼を言ってくれた。その顔を見ているとなんだか嬉しくなった。
「わたしはセシル。ザイルの町に向かって旅をしてたところなんだ。よろしくね!」
「え……旅……? 森の奥から……?」
ソフィーはなぜか不思議そうにセシルを見る。何だろう、まずいことを言っちゃったかな?
治療が終わったあと彼女とともにシフの案内で見つけた目的の群生地に向かった。そして一緒に薬草の採取を終わらせた。これだけあれば治療には十分だろう。
突然彼女は申し訳なさそうな表情でもじもじしながらセシルに向かって言った。
「本当は何かお礼をしたいんですけど、お医者さんに診てもらうお金もなくって……」
「このくらい気にしなくていいよ。ソフィーはどこに住んでるの?」
「私はザイルの町の
「全然構わないよ。それじゃ、お礼はザイルの町までの案内でよろしくお願いします!」
「……っ! ぜひ! 本当にありがとうございます……!」
ソフィーは深々とセシルに向かって頭を下げる。感謝されるとなんだかくすぐったい。
森を抜けるまであと少しの筈だ。セシルはソフィーと一緒にザイルへの道を見つけ再び歩き始めた。
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