第5話 終末フライングエンド・後

 




 1組の男女との会話を終えた喫茶店のマスターは、客が来ないこの時間を嘆きながら、考え事をして暇を潰していた。

 すると、一人の客が店を訪れた。


「いらっしゃいませ」

「マスター、コーヒーを1つおねがいするよ」


 その男は、魔法使いだった。魔法使いはマスターに対しては素の口調を出すようになっていた。

マスターは、コーヒーの用意をしながら、会話を振った。


「そう言えば、私以外に幸せを配った人は何人居ますか?」


 マスターがそう聞くと、魔法使いは何故そんなことを聞くのか、と不思議に思いながら答えた。


「2人です」

「1人は、宮城県に住んでいるおじいさん。どうでしょう」


 魔法使いは目を丸くした。


「これは驚いた。本当になんでも知っておられる。ええ、その通りですよ。1人は、N国の世界一無欲な男性に。もう1人は、宮城県で世界一幸せを追い求める、欲の深いご老人に」

「そしてN国の男性は欲を知り盗みに走った。宮城県のおじいさんは幸せの絶頂のまま、亡くなった。そうですよね?」


 コーヒーを差し出しながら、マスターは言った。


「脱帽です。まさにその通り」


 もはや驚くことも無く、静かにコーヒーを受け取りながら、魔法使いは答えた。


「しかし、幸せのまま飛び下りた理由が未だ分からないまま。マスターはどう思いますか?」

「それはもちろん」

「もちろん?」

「——幸せに、生きるためですよ」



 相変わらず逆説的なマスターは、とても楽しそうに、笑っていた。

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