第22話

暗闇の中を一人、器用に壁を乗り越え、隠れながら移動して行く。

見回りの兵士達は戦争が終わったからなのか安心しきって酒に飲んでぐったりとしていた。

よくもまぁこんなにも幸せな顔をして寝ていられるもんだ。

僕は男の口に手を当てると男が喚き出す前に喉へナイフを突き刺す。

男の首元から大量の血が溢れ出す。

ドロっとした血液を見ていると何だか自分が抑え切れなくなってくる。

僕は急いでその場を離れ、奥へと進んで行く。

吸血鬼が人の血を好む理由がわかった気がする。

あのままあそこにいたらきっと自分を忘れてしまう気がする。

それだけ、人の血が吸血鬼にとっては魅力的なものなんだろう。

さらに奥へと進んで行くと前には二人の兵士が用を足しているのが見えた。

アノーレスと戦うのなら兵士の数を減らすのはいい考えだと思った僕は道中、見かけた兵士は一人残らず、殺してきた。

もちろん、目の前にいる二人も例外ではない。

きっと吸血鬼の力を手に入れていなかったらこんなことはしていないだろう。

この力はとても便利なものだ。

体も硬かったのが少し柔らかく、そして少しの傷もつかない強靭な体を手に入れた、

これなら、多少、抵抗されたところでものともしないだろう。

「それでよぉ、革命軍だっけか?あいつらはまだ全員、捕まえられないのかい?」

「さぁな、知ったこっちゃねえよ。ただ、女が一人、近くの拠点周りにいたのを誰かが捕まえたとかなんとか言ってたぜ?」

「ああ?そりゃ羨ましいなぁ。久しく女なんて抱いてねぇしよ。その拠点の奴らが羨ましいよ。」

革命軍の女が捕まった?

もしかするとマアトルの残党の一人かもしれない。

革命軍に加わるには彼女を助けた方が都合が良さそうだ。

「ったく、どうして俺たちはこんなところに配属されちまったのか…。まぁ酒がたんまり飲めるからあんま文句はねぇけどよ。はぁ…そんじゃ先に行ってら。」

運良く兵士の一人が離れて行く。

僕は兵士が見えなくなるのを確認するともう一人の兵士の後ろへ回り込み、口を塞ぐ。

「声を出したら殺す。」

男は何も言わずに僕を体から引き離そうと暴れるが僕は彼の体をしっかりと掴みながら物陰へと移動する。

そして人気のない場所まで移動するとナイフを彼の首元へと押し付けた。

「革命軍の女は何処にいる?」

「しっ知らないっ、俺は何も知らないよっ。」

「それならもう用はないよ。」

僕は彼にそう告げると彼の首を薄く切りつける。

「わっ分かった。ここからさらに北へと進んだ奥へと進んだ場所に俺達の仲間の拠点があるんだ。そこにいるっ…と思う。」

ここからさらに北の奥。

もっと具体的な場所が知りたい。

「今から地図をお前に渡す。拠点の場所を指差せ。」

男の指先をナイフで切りつけると地図を男へ渡す。

男は震えながら地図を広げると指先の血で拠点の場所を示した。

「これでいいんだろ?だから、頼む…殺さないでくれっ、お前のことは誰にもっ。」

彼の言葉を最後まで聞かずに僕は男の喉をナイフで切り裂いた。

これで拠点のおおよその場所は分かった。

まずはここを目指すことにしよう。

だがその前にここの兵士を一人も生かしておくことはできない。

アノーレスの兵士は一人残らず、皆殺しだ。

僕はやり残したことを済ませると関所を突破し、北の拠点へと進み出す。

睡眠を取らなくても良いというのは本当に便利だ。

お陰で時間を短縮することができる。

このまま進めば2日以内には到着するだろう。

本当は馬に乗って進めたら良いのだが…カーラから教わればよかったな…。

それにしてもここまで動けるようになるとは本当に吸血鬼の力は凄い。

運動が何もできなかった僕が今ではこうして兵士を軽く相手することができる。

これならすぐにでもアノーレスに攻め込むことができるかもしれない。

もし、革命軍の全員を吸血鬼に変えてしまうことができたら…きっと恐ろしいほど強い軍隊が出来上がるだろう。

今の僕は誰にも負ける気がしなかった。

例え、カーラが言っていた人狼が相手でもだ。

もうあの頃のような役立たずではない。

僕はこの世界を救う救世主となり得る存在だ。

なんて調子に乗り馬鹿なことを考えながら歩いているといつのまにか例の拠点の近くに着いていた。

僕は近くの丘の上に移動し、上から拠点を覗く。

入り口は二つありその両方に兵士が二人ほど立っている。

それと中にはさっきとは比べ物にならないくらいの兵士がいる。

これは…全員倒すのは無理そうだな。

取り敢えずの目標は革命軍の女を助けること。

実行するのは夜更けだ。

それから僕は日が暮れるまで計画を立てながら拠点を偵察していた。

革命軍の女が何処にいるのか、おおよその場所はわかった。

兵士の中でも特に偉そうな男が仲間を引き連れ奥のテントの中へと入っていく。

おそらくだがあそこにいると思う。

そして日が暮れ、辺りは暗闇に包まれた瞬間、僕は動き出す。

拠点のそばまで近づき、一人の見回り兵を捕まえると息の根を止め、鎧を身に纏う。

窮屈だがこれなら一眼見ただけじゃ、誰かはわからないはずだ。

死体を草むらに隠すと僕は何事もなかったかのように見回りを始める。

思った通りだ。

どうやら僕の殺した兵士は仲間とは親しくないらしい。

誰からも話されることなく、どんどんと奥へ進むことができた。

そして革命軍の女が捕まっている場所へ向かっていると前からガタイのいい、兵士が一人現れた。

「んっ?お前、なんでこんなところにいるんだよ。お前の持ち場はここじゃねぇだろ。だから早く持ち場に戻れよ。こんなとこにいるの見られたらお前…またラリーに何されるか…。」

ガタイのいい男はそう言うと僕の肩に手を置き、何処かへ歩いて行った。

一瞬、バレたかと思い、ヒヤヒヤしたがどうやら彼は気づいてはいなさそうだ。

まぁ、そんなことはどうでもいいか。

今は先に進まないと。

テントの間を隠れながら進んでいると声が聞こえてきた。

「…で……何処にいるんだっ。答えろっ。」

「………。」

このテントの中に彼女がいる。

どうやら考えていた場所とは違ったみたいだ。

「…どうしても話さないと言うのならば…仕方があるまいな。こいつの着ている服を全て脱がせろ。」

これは…早めに助けた方が良さそうだな。

近くにあった松明を手に取ると遠くのテントへと投げつける。

「火事だぁぁぁぁああっ!!!」

そして大声を出して叫ぶと中にいた兵士達はすぐに外へと飛び出し、燃えているテントへと走って行った。

僕は誰も残っていないことを確認すると中へと入る。

中には黄金色に染まった髪を後ろへ束ねている僕と歳が同じくらいの少女が目元を隠されボロボロの鎧を纏い、鎖で繋がれている。

僕はすぐに彼女の鎖を解いてあげた。

だが次の瞬間、彼女は僕の体を地面へ押し倒し、腰につけていたナイフを手に取ると僕の頭の横へと思いっきり突き刺した。

「……。」

「まっ待ってくれ、僕は君のことを助けに来たんだっ!!!」

「助けに…?」

「ああ、君は革命軍のことを知っているんだろ?僕はその革命軍の仲間にして欲しいんだ。だから君を助けに来たんだけど…。」

彼女は少し時間を置き、僕の背中から降りる。

「すまない…てっきり、馬鹿な兵士だと思っていた。」

「はは…誤解が解けて良かったよ…そんなことよりも今はここを抜け出さないと。待ってて今、その目に巻かれた布を外すからっ。」

彼女の目元の布を外そうと手を伸ばすが彼女は僕の手を拒んだ。

「いらん、この布はこのままでいい。」

「だけど、それじゃ何も見えないだろ?」

「いや、見えているさ。」

何が見えているのか、分からないが本人がいいと言っているのならそのままにしておこう。

「俺は女の様子を見てくるっ。」

外の兵士がテントの方へと近づいてくる足音が聞こえる。

「すぐにここから出て行かないとっ。」

「…その前にやることがある…。」

すぐにでもここから抜け出さないと兵士の大群を相手にしないといけなくなる。

それだけはごめんだが、彼女はまだ何かやり残したことがあるようだ。

「隠れていろ。」

隠れていろって…そんなことをしている暇なんてないのに。

何をするのか分からないが僕は彼女の言う通りに姿を隠すと彼女は鎖を体に巻き、また縛られている時と同じ格好をした。

「悪かったな…何だか騒ぎがあったようでな。今からはちゃんとお前の相手をしてやるよ。」

他の兵士よりも立派な鎧を着た男が彼女の近くへと歩み寄る。

「私だってお前のような少女を傷つけたくないんだ。お前が少しでも話してくれるのならすぐにお前のことを解放してやろう。」

「………。」

「だんまりか…残念だよ。ジャンヌ…お前は…賢い女だと思っていたんだが。それならば仕方がない。」

少女の名はジャンヌと言う名前らしい。

何処かで聞いたことがある名前だ。

そんなことよりも男がジャンヌの前まで立つ。

何かをする前に止めるべきだと判断した僕は男の元へと駆けつけようとするがそれよりも早くジャンヌが男の体へと抱きついた。

「ジャンヌ…貴様…何故…。」

男は腹部を押さえながら後ろへと後ずさりをする。

男の腹部を見るとそこには僕のナイフが突き刺さっていた。

「お前のような下郎がこの私の名前を軽々しく呼ぶな。」

ジャンヌはそう言うと男の腹部に刺さったナイフに目掛けて踵を下ろした。

鈍い音と共に男の叫び声が響き渡る。

あれでは仲間が駆けつけてしまう。

「ジャンヌ、すぐにここから逃げないと。彼の声を聞いた兵士がっ。」

「構わん。その方が逃げやすい。」

男の腹部からナイフを抜くとナイフについた血を拭い僕へと渡す。

「逃げやすいって…。」

「いいから、ついて着てくれ。」

彼女は机の上に置かれた剣や道具を手に取るとテントに穴を開けて顎を向ける。

何だか分からないが彼女の言う通りに動くことにした。

テントの外には誰もおらず、僕達は静かに素早く馬小屋へと移動する。

「待ってくれっ。僕は馬には…。」

彼女は何も言わずに馬に乗ると僕の手を引き後ろへと乗せる。

「はっ!!!」

そして僕を乗せたまま彼女は馬を走らせていく。

後ろを見ると兵士達はついて着ていなかった。

どうやら無事にあの拠点を抜け出すことができたらしい。

「そういえば、君の名前を聞いてなかったな。」

「僕はジルっ、君は確かジャンヌ…だっけ?」

「ああ。ジル、さっきは助けてもらったのにあんなことをしてすまなかった。」

本当だよ。

少しでも動いていればあのナイフは間違いなく、僕の顔に突き刺さっていたはずだ。

「いや、いいんだ。あんな状況だったから無理はないよ。」

「それでジル、お前は革命軍に入りたいと言っていたな。それは何故だっ。」

「アノーレスに恨みがあるから。それじゃダメかな?」

「いいや、構わん。それに君は私のことを助けてくれたからな。まぁ助けなど要らなかったがお陰で楽に脱出できた。それに情報を手に入れることもできたしな。」

彼女ならきっと一人でもあそこから抜け出すことができた気がする。

でも、こうして彼女と出会うことができたんだ。

「ジャンヌはどうしてあそこに?」

「戦うためには相手の情報が必要だろ?そのためにはああやって捕まったふりをし、情報を得た方が早いからな。」

なるほど、わざと捕まってあそこにいたわけか。

「それで…僕は仲間に入れてもらえるのかな?」

「それは…君次第だな。我々の拠点まではまだまだ時間がかかる。その間に君のことを教えてもらおうか。」

それが僕とジャンヌの初めての出会いだった。

後に彼女は僕の親友へとなっていく。

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