飛行機
影宮
夢と現実
「もしもし、聞こえますか!」
『どうしました?』
「パイロットが気絶!操縦を交代しました!」
『気絶…っ!?』
「何かしらの衝撃で!こちとら以外全員!反応が無く!!」
焦りを感じつつ、目を使えない目前の悪さを呪う。
飛行機を操縦したことは無い。
手探りで乗客、パイロットの命を背負っている。
墜落は許されない。
『では、そのまま操縦を!!』
「忍にできるかっての!!高度が、どうやって上げんのさ!!」
怒鳴るも、相手からの反応が途絶えた。
特有の雑音すら聞こえないということは、切れたんだろう。
絶望的だ。
「通信が切れ…ッ!?死んでも恨まないでよね!!ってかこれ一人で操縦するもんじゃないし!」
窓を叩き割れば見えるんだろう。
けれど上空でそんなことをすればどうなるかはわかっている。
正常な時の速度や空の状況を思い出せ。
それから、あの衝撃。
振動、時間経過…。
アラームか何かが鳴った。
「勘弁してよぉ…海に着水するしかない…よね?」
大きく機体を反らせる。
ここで墜落したら下は街。
どうにか、海へ。
「才造…帰れなかったらごめん。頼也ぁ…気絶しないでよぉ…。」
勘が当たらなかったらどうしたら?
どうもこうも、終わりだ。
恐怖、不安。
息が苦しい。
「影、落ち着け。指示をくれ。」
隣に頼也が座った。
「頼也…。」
「珍しいな。いつもならこんな窮地にさえ屈しないだろう。」
フッと笑う頼也の目が、信頼を魅せる。
いつも、これの命を預かり指示を下しているのは、誰だったか。
そう、己。
深呼吸一つ。
「徐々に高度を下げる。着水するよ。」
迷いのない声。
その目は、見えない前を睨む。
この感じ、違和感がある。
「頼也、高度を少し上げる。」
「了解。」
色々と壊れているらしい、もうその数字も狂っている。
だが、わかる。
「……上がらない…?」
「上がっていないのか?」
「感覚的に。」
舌打ちをして、何がいけないのかを探す。
あまり時間はない。
「ん、これ…?あ、上がった。」
これさえも勘だ。
下手に触ればそれが障害になるというのに。
「自動操縦…。」
「わかるのか?」
「わかるわけない。だから探してる。」
赤く光り鳴るそれもなんなのかわからない。
何もわからない。
風当たりが変化したのに気付く。
「海…。着水する!船が無いことを祈って、覚悟は?」
「了解。死ぬ覚悟はある。」
「高度を下げるよ。」
視界が晴れない。
ということは、これは窓が割れているのか。
緊張が走った。
無事、海上に着水できたらしい。
それがわかれば、立ち上がり、緊急脱出用を開ける。
「頼也、気絶してたけど大丈夫?」
「いや…頭痛が酷い。」
近くにいた船が近付いてくる。
「おーい、大丈夫かー!生きてるかー!」
手を振り大声を出して向かってくる。
緊張が解けて、足の力が抜けた。
それを頼也が支える。
無事、全員救助された。
気絶や打撲で、皆生きている。
慣れないモノに触れなければならず、知らぬ命を背負わなければならない。
それがまだ恐ろしいと感じるような、可笑しい感覚。
「目が覚めたか。」
「頼也?」
「どんな夢を見ていたか知らないが…珍しい寝顔を見ることができるとはな。」
「まるで幼い頃の焦りだった。」
全て夢であったのだと、現実が語る。
新聞紙に目を落とせば、飛行機墜落事故が一面に載っている。
夢で操縦した飛行機の、墜落。
乗客、パイロット全員の死亡。
もし、これに乗っていたなら、生きていたのではないか、という薄っぺらい気持ち。
「頼也は何の夢を見た?」
「飛行機の事故だ。」
「墜落した?」
「しなかった。誰かのお陰で海に着水したが…現実は違うらしいな。」
親友と夢の一致。
笑うには重たい。
才造の帰りは明日の夜。
飛行機に乗るはず。
電話をかける。
『どうした?』
「飛行機、乗らないで。」
『墜落事故を気にしてるのか?』
「乗んないで。」
『……了解。遅くなるだろうが、走っていく。』
「乗んないで……。」
『泣くな。わかったから。乗らない。夢でも見たか?』
「飛行機、海に着水。死者零名。」
『船、飛行機には乗らない。それでいいな?』
「うん。」
零。
終わり、の数字。
始まりを表しながら、何かが終わった事を告げる数字。
あの夢の中で、死者は零名。
現実では全員が死亡。
夢はひっくり返る。
胸騒ぎ。
「影、どうした?」
揺れる。
揺れる、揺れる。
新聞紙を再び広げる。
飛行機が墜落したのは何処だ。
何処に墜落した?
目を見開く。
「夢?」
そこは病室だった。
「夜影、目が覚めたな?」
「才造?頼也は?」
「治療中だ。気絶した後の強い頭痛についてをな。で、お前は緊張が解けたのか気を失った。」
混乱する。
どちらが夢なのかを正しく判断すべく、鈍った思考を回す。
「才造は、いつ?」
「ワシはこの二時間前に戻った。飛行機、船には乗らない方がいい、そう夢でお前に言われたから、それには乗らずに。」
旦那と夢の一致。
夢?
飛行機墜落事故で墜落した場所は確かに自分のいる場所だった。
それが夢だったのだろう。
なんだ、この妙な、妙な…。
「落ち着け。よく頑張った。ゆっくり休め。」
揺れる。
暫くは、この夢と現実を繰り返しそうだ。
そう思いながら、揺れていた。
飛行機 影宮 @yagami_kagemiya
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