太陽が昇る時

勝利だギューちゃん

第1話 浜辺の彼

「今日も雨か・・・」

自室から、私は外を見る。

もう、何日も降り続けている。


「彼、どうしているかな・・・」


彼というのは、クラスメイトの男の子。

人との会話を好まず、1人でいる事が多い。

私も、遠くから見ているだけだった。


ある日、学校の帰りに、浜辺で彼を見かけた。

誰もいない浜辺で、ひとりイーゼルを立てて、

キャンバスに向かったいた。


でも、何も描こうとせず、ただ、キャンバスを眺めている。


その時は、それで通り過ぎた。

しかし、その日から、毎日彼を見かけた。


ある日、思い切って彼に声をかけてみた。


「何してるの?」

できるだけ、笑顔でふるまったつもりだ。

でも、彼は答えない。


「ねえ、答えてよ」

「義理はない」

ようやく開いてくれたが、その言葉には、とても重い物があった。


「どうして?」

「なら訊くが、僕の名前はわかりますか?津川桜子さん」

「どうして私の名を?」

「クラスメイトだからね・・・知っていたら、おかしいですか?」

確かに、普通は覚えている。

でも、彼が私の事を覚えていてくれた事に、嬉しさと同時に、驚きを隠せなかった。


でも、私は彼の名前を覚えていなかった。

その他大勢のしかみていなかったのだ。


「仕方ないよ。君たちにとって、僕は背景以下だから・・・」

「そんなことは・・・」

「否定できる?」

「できない・・・ごめん」


この会話の間、眼を合わせることは、なかった。

彼はただ、白いキャンバスを見つめていた。


「悪いが・・・」

「何?」

「興味本位で話しかけるのなら、邪魔しないでくれ」

「・・・ごめん・・・」


その時の私は、ただ立ち去るしかなかった。

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