第70話 学園と鳴音

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ここは、第8区の北方に位置する都市、ヒントン。


国選パーティになる方法は、7区の中央で開かれるベンチャー大会で勝ち上がるか、または、Aクラスベンチャーとして、これまた7区主催の試験に合格するかのいづれかである。


しかし、実は他にいくつか例外がある。


その例外の1つがこの学園都市ヒントンにある国選学園だ。


この学園は魔法、様々な武器に関して訓練、養成する設備が敷かれており、さらに学園自体、区を貫いて作られているため進級に伴い、区の昇格資格を得ることができ、学園の承認が得られれば、国選パーティとしても認められる。


入学資格は最低限の実力を示す他は特にないため、今日も多くの若者が夢を追い、己を磨いている。


そんな中、共に入学して1ヶ月ちょっとで頭角を表し、早くも2年生となって今は模擬戦をしている2人がいた。



その1人が鮮やかな紅色の片手剣に炎を纏わせ、もう1人に向かって、これまた鮮やかな剣技で猛撃を仕掛ける。


これに対してもう1人も聖魔法によって創り出された10本にも及びそうな光の剣を空中で巧みに操り、拮抗を保っている。


しかし均衡は一気に崩された。


1人が光剣を操りながら、さらに光の球(光弾)を創り出して相手に向けて放つ。


けれどももう1人は相手との距離を詰めながら剣の腹を使って光弾を相手に向けて撃ち返す。


光弾を弾き、残った光剣で走り寄ってくる相手の首元に刃を向けたのと紅の剣が相手の首元に刃を添えていたのは同時だった。


「そこまで!引き分けとする。」



監督者の言葉を聞いて、模擬戦中の緊迫感は嘘のように、2人の雰囲気も表情も弛緩する。


「これで8勝8敗4引き分けか〜。ホント強くなったよね、シャルル。」


「ケイトもでしょ。こっちは何本も剣使ってるのに、全部いなして、まるでアスカみたいだったよ。」


つい最近まで仲間だった男の名前が出て、ケイトも、言った本人のシャルルも懐かしむ表情を露わにする。


「まだ別れて1ヶ月半ぐらいなのに、とっても長く感じるわね。」


「うん、ギーブもアスカもクロウも、新しい仲間と上手くやれてるかな。」


「バカねえ、シャルル。あのバカギーブはともかく、アスカやクロウが困ることなんかそうそう起こりゃしないわよ。


まあ、もしかしたら、案外私たちの方がアスカより早く国選パーティになれるかもしれないけどね。」


「強くなった私たちを見たら、アスカ…褒めてくれるかな?」


「あーやだやだ。恋する乙女の顔しちゃって。アスカも罪な男ね。」


「ちょ…ちょっとケイト!茶化さないでよ。」


そんな2人の気心知れた会話をしていると、1人こちらに駆けてくる少年がいた。


「ケイトちゃん!これ。急に鳴りだしたからビックリして、これ、ケイトちゃんのだよね?」


彼はマロン。学園でいじめられていた所を入学初日のケイトに助けられるという、本当なら男女逆のシチュエーションで出会ってから、よく3人で行動を共にしている。


「どうしたの、マロン。ってそれ私の荷物…って。何この音?」


ケイトの鞄からはブザーのような、アラームのような音が鳴り続けていた。


アスカがこの音を聞いていたら『電話』という単語を思い浮かべるだろう。


とりあえずケイトは鞄から音の元凶を取り出す。


「ケイト…これって。」


「ええ…今の今まで完全に忘れてたわ。」


音を出していたのは、かつて第9区の2つ目の遺跡で手に入れた、同じものを持つアスカと“のみ”会話できる通信用魔道具だった。

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