第34話 命名と登録

パーティ名はメンバーに募集したら、全員に何でもいいと言われてしまった。


俺はこういうセンスがないので困ったが、

道を歩くたびに同期のパーティに

「あいつらだぜ。噂の。」

「ああ、全員が武器選定の。」

「魔法系選定ゼロだってよ。」


と囁かれていたので、どうでもよかったがさすがにイライラしたので、皮肉を込めて《ゼロ・マジック》と命名した。


実際魔法は使うんだけどな。


今はパーティ揃って、街の外の雑木林にいる。


「2ヶ月後の大会に向けてみんなの戦闘スタイルを確立したいと思う。」


俺は魔法について書かれた本を一通り読み漁った中でいくつか分かったことがある。


そもそも選定はその人のマナの流れに最も適したタイプに合わせたものである。ならば、似たタイプのものは扱えるはずである。


だから、与えられた選定に近しい選定なので、強化魔法を使うクロウは付与魔法を使えるという道理になる。クロウには実際に少し前から練習をしてもらっている。


強化魔法は自身にしか使えないが、付与魔法は他人に使える。これは相当な戦力アップだ。


「まだベンチャー大会に出るなんて実感ないんすけど、具体的には何をすればいいんすか、あんさん。」


「ああ、今日は実際にクロウに付与魔法をかけてもらったときの武器の扱い方と武器屋に行って、サブ選定探しだな。そうだな、先に武器屋へ行こうか。」


やはり選定のものは使ってみるとすぐ分かるらしい。


メンバーのサブ選定をまとめると、

イオン: 短剣

メグ : ムチ

ルイズ: 不明

クロウ: ヌンチャク


ルイズはどれもしっくりこなかったようだ。

もっと別な何かなのか。


とりあえずサブの装備として、各自備えておくことにした。


今は街の外の雑木林にいる。


「ぼ、僕に魔法をかけてくれるの?」


「ああ、まずは1番効果が分かりやすい弓のイオンから付与魔法を試してみよう。

クロウ、頼む。」


「ああ。」


クロウがイオンの弓に手をかざすと白い光が浮かんできて、やがて薄まって弓を纏った。


「わあ…」


イオンを含め何人もが息をのむ。なぜなら、このパーティにいる者は全員武器選定で魔法を使ったことなどほとんどないのだから。


「よし、射ってみろ。」


クロウの言葉にうなづくとイオンは木に向かって弓を放つ。


ヒュンッ



放たれた矢は信じられないスピードで木の幹へと突き刺さり-----

そのまま貫通して勢いを殺さぬままにもう一本の木も貫通した。


「なにこれ---」


射った本人のイオンに加えてメグやルイズも口をポカンと開けている。


「とりあえず、俺もよく使う“速度上昇”を付与した。火属性などの付与は---まだ練習中だ。」


「この魔法に加えて武器の腕もすごいんだから、あなたたち2人がAクラスっていうのも納得せざるを得ないわね。」


「ル、ルイズさんも!Bクラスなんてすごいよ!僕なんて、パーティのクラスも下げちゃって---」


イオンの自信なさげな声を聞き、若干メグも申し訳ない顔をする。


「今のクラスなんて正直どうでもいい。俺たちは成人したばかりだしな。これから上げればいい。」


「さっすが、あんさん。いかすっす。」


そして一通り付与魔法を試した俺たちは諸々の買い物を済ませて、1日を終えるのだった。



今日は朝早くから5人揃ってギルドにやってきている。


「ああー、ついに初仕事っすね。緊張してきたっす。」


そう、ベンチャーは基本的にギルドに寄せられた依頼をこなし報酬を得て生計を立てる。まあ、他にも金を稼ぐ手立てはあるのだが。


「まあ、やることは決めてるがな。」


そう、今日行く予定なのはこの街に隣接する遺跡(この区ではダンジョンと言うらしいが)

で、3人に実践経験を積んでもらうつもりである。


俺とクロウに関しては9区で散々やってきたが。


ギルドに入り、依頼掲示板からダンジョンの案内用紙を外す。新生のパーティが多いためか人も多かったのですぐギルドを出た。


「とりあえず今日は初日だしムリせず、行けるところまで行ってみようか。」


全員の首肯を確認して、街に隣接する石造りの遺跡ダンジョンへとやってきた。


ダンジョンの周りは独立した小さい町のようになっており、ダンジョン内で得られた魔物の素材やマジックアイテムなどが売られている。


その中でも、ダンジョン管理を行う役所へと足を運んだ。


「どうも。なんのご用でしょうか。」


気の良さそうな受付の男性と衛兵のような人が何人かいた。


「今年ベンチャーパーティになってダンジョンに入るのは初めてなんですが。」


「あ、はい。ダンジョン登録ですね。では、登録と説明をしますので1人ずつベンチャーカードをこの水晶にかざしてください。」


言われた通りにカードをかざして、そのときに俺のクラスを見た受付員が目を見開いていたがそこはプロなのか冷静に対応し、説明に移った。


「ここは『ダンジョン67号』比較的最近発見されたダンジョンです。階層は地下1F、地下2Fと下に下がっていきます。

下層ほど魔物も強力になっていきます。

倒した魔物は個体差はありますが、一定時間後にリポップします。


最下層へはまだ誰も到達していませんが、現在の最高到達者は25層までたどり着いています。

各フロアの階段の横には特殊な転移魔法陣が設置されており、一度到達したフロアへはダンジョン入り口から直接転移することができます。

あと、5階ごとにボスと呼ばれる魔物が存在しています。特に10階毎に現れるボスは危険なので気をつけてください。


最後に、ベンチャーである以上、自分の命は自分で責任を持つように、お願いします。


何か質問はありますか?」


「いや、大丈夫です。色々ありがとう。」


そういい、役所を出てダンジョンの入り口へと向かう。ベンチャーカードの裏には

「ダンジョン67号 : 到達階層--」と記されていた。


「うう、僕緊張してきたよ。」

「イオンは男なのにだらしないっすねー。少しはあんさんたちを見習ったらいいっす。」


「そんなこといったって…メグは怖くないの?」

「ん〜私は地元の村の周りの魔物はしょっちゅう倒してたから浅い階層ならそんなに怖くないっすよ。ルイちゃんはどーすか?」


「ルイ---!?ふん、さっさとこのダンジョンを攻略してAクラスになってやるわ」


イオンは若干不安だが、みんななかなかやる気はあるみたいだな。


クロウとも目で最終確認をとる。


「よし、初陣だ。」


こうして新生パーティはダンジョンに足を踏み入れた。

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