最強の兄妹は世界最強を目指さない〜無双ですか?それよりも探検しませんか?〜

広瀬蒼

0.プロローグ

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 港町ノーズアンミーヤから北の地域に、迷いの森と呼ばれているところがある。

 その森にはアマヤ・ルエムの民達が代々保護している古代遺跡の一つイーストルーツがあった。


 森全体を魔術結界で遮蔽しており、森の中に一歩足を踏み入れれば方向感覚を失い、いつの間にか全く別の場所に歩み進んでしまう事から、迷いの森と呼ばれるようになった。


 その結界の中心部には古代遺跡があり、その古代遺跡を囲うように要塞が築造されている。

 高さ十メートルを越す防御壁。

 その上では凶々しい容姿のゴーレム兵が隊列を組んで巡回し、上空では鷹型の偵察用ゴーレムが周囲を警戒していた。


 要塞内の通信室では、防衛隊長のロイが本部への報告をしていた。


 簡素な造りの部屋の中央に、机と二脚の椅子が置かれており、机の上には通信機と呼ばれる魔術道具が置いてある。


 通信機は高さ三十センチほどの円筒型の魔術道具で、ハルフォードが開発した遠距離でも会話ができる魔術道具である。


 机上に置かれた魔術道具を前に、片膝をついて頭を下げながら報告をするロイ。

 魔術道具は会話しか出来ないのだが、片膝をついて報告をする辺りは、彼は真面目な性格であることが窺える。


 姿勢を正し、真剣な表情でハルフォードの話を聞いているロイではあるが、時折、自身の髪の毛が気になるのか、手で頭皮と髪を触りながらハルフォードに報告を続けていた。


「ハルフォード様、それで今回の侵入者ですが……

 前回と同様の防具と武器を身につけており、奴等も同じ者から送られてきた手勢かと思われます」

『また?本当に懲りないよね。

 これで三回目のだよ?

 それで、その侵入者達はどうしたの?』

「はい、こちらも前回と同じく体内に入れてあった魔術道具で全員死亡しております。

 残念ながら首謀者を聞き出すまでには至っておりません」

『はぁ、本当にさ、人のやる事とは思えないよね。

 仮にも配下の兵達だよ?

 その兵達の体内に魔術道具を入れて、それを起動させるなんて考えられないよ。

 それでその魔術道具……

 こっちで調べてみたんだけどさぁ、馬鹿みたいに単純な魔術道具なんだよ。

 一定時間内に親機の近くに戻らないと、子機である魔術道具が起動するんだ。

 そして起動すると体内に毒が回るって訳だ。

 わざわざこんな事をするなんて、首謀者はよほどの小物なんだろうね。

 それに人を物か道具にしか見ていない。

 恐らく今までの侵入は偵察だね。本隊は別に用意してあるはずだ。

 危ない橋は部下に渡らせて、自分は安全なところで様子見ってところかな?

 本当、下衆だよね……』

「そうですね、私も侵入者達の動きを見たところ、騎士や兵士の中ではそこそこの力はあるかと思います。

 連携も、傭兵や盗賊の類ではないでしょう。

 あれは訓練された者の動きです。

 ハルフォード様が仰っていたように、やはり首謀者はどこかの貴族が関係しているのではないでしょうか?」


 迷いの森への侵入は今回で三回目だった。

 ロイが言うように侵入者は、体内の魔術道具によって首謀者の特定までには至ってはいない。


 そのことに隊長であるロイは焦りを感じ、眉間に深い皺を寄せ、苛立ちが顔に滲み出ていた。


『あぁ、そうだね。多分、貴族連中だよ。

 前回の侵入者の武器と防具を見る限り、相応の金と権力が無ければ、あんな代物に手は出せないでしょ。

 俺達みたいに組織って線もあるけど、裏の人間でも、あんな雑な部下の使い方はしないよ。

 それにしても、あの結界を三回も解除してきたのが気になるね。

 自画自賛になっちゃうけど、あの結界は世界で唯一無二の結界だよ?

 解除されるなんて思っても見なかった。

 でも要塞にすら辿り着く事が出来ないなら、心配する必要もないみたいだね!』

「はい、今回の侵入者も凡庸型ゴーレムの前に手も足も出ない状態でした。

 あの程度なら要塞にいる戦闘特化型ゴーレムを相手にするなら、千人規模の兵じゃないとまともには戦えないでしょう」

『へぇ、そうなの?

 でも三回も兵を寄越すくらいだから、それ位はしてくるんじゃない?

 イーストルーツについて全容を知ってるのは俺達くらいだけど、三回も侵入して来るんだから、学者達が古代遺跡を調べてイーストルーツを嗅ぎつけた可能性もあるね。

 だからさ、こっちも動くことにしたよ。

 まぁ、俺が気になっているのもあって、ちょっと前にこっちで準備してたんだけどさ。

 前回の侵入があってから屋敷を出たから、多分そろそろ着いてるんじゃないかな?

 可愛い子には旅をさせよ、ってね!

 あの二人にとっては初めて尽くしの旅になるね。

 ふふふっ、二人共。変なことしなければいいんだけどね……』


 ハルフォードは迷いの森に設置した結界に、絶対的な自信があった。

 彼は古代遺跡の守護者であるが、その一方で研究者でもあるのだ。


 唯一無二の結界というのは誇張しているのではなく、彼がこれまでにしてきた研究、開発の実績を踏まえても世界で稀な強固な結界と言えるだろう。


 その結界が解除された事をハルフォードは気にかけており、二回目の侵入があってから首謀者の調査をすることに決めたのだ。


「ハルフォード様。

 その二人ってまさかレイとリリィでしょうか?」

『うん、そうだよ!何?心配してるロイ?

 まぁ、それは分からなくもないけどね。

 二人はちょっとズレてるし?!』


 ロイは片膝をついた姿勢のまま、ハルフォードの『ズレてるし』と言う言葉に反応し、慌てた表情を浮かべ、すぐさま自身の髪に手を当て「えっ?!ズレていましたか?」とハルフォードに応える。

 ハルフォードは予想だにしないロイの反応に『アハハ、そっちはズレてないんじゃない?見えないから分からないけど、ちゃんと付いていると思うよ!』と笑いながら応えた。


 自身の髪がちゃんと付いている事に安堵の表情を浮かべ、落ち着きを取り戻すロイ。

 通信機からはハルフォードの笑い声が響いていた。

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