第17話「俺、誘われる」

 領主の城に入った俺は、門内の惨状を嫌々通り過ぎたメリア、ニィモ、ジル、リズと共に謁見室へと急いだ。もしかしたら領主は書斎や自室にいるかもしれないが、自信たっぷりな奴というのは仰々しい場所で待っていると相場が決まっているのだ。



 俺は城の中を進み、城から武器を捨てて逃げ出すものを無視し、草食を施した立派な扉の前に来ていた。



「領主に秘策はないと思うが、慎重に行くぞ」



 俺が後ろの四人に注意を促すと、四人とも頷いた。



 俺の膂力で大きな扉は一瞬で大開にされる。そしてそこにいたのは玉座に坐する領主がいた。



 だが、何かおかしい。



 座っている領主には鎖骨から奇妙な突起物を果たしている。それが剣だと気づくには、そう時間はかからなかった。



「自死したか。いや、これは」



 自殺の割には毒薬の服用や割腹、斬首、絞首の類ではない。これは誰かに刺された他殺体だ。犯人は近くにいる。



「これはこれは二日ぶりかな。ケントとその他諸君」



 玉座の裏から出現したのは、喋るガイコツだった。



「上級アンデッドか!?」



 俺達は身構える。だが上級アンデッドはこちらを襲うそぶりは見せない。



「私を覚えているかな。メリッサだ」



「メリッサ? 確かワイバーンの時の……」



「覚えてくれてありがとう。私は君達に勧告に来たのだよ」



「勧告?」



「そうだ。まもなく私の軍がこの領主の城に来る。規模は君達の軍勢をはるかにしのぐ数だ。勝ち目はない」



 メリッサがそう言うと、メリアは何かを察したのか演唱を唱え始める。ターンアンデッドの類だろうか。ともかく時間を稼ごう。



「それで、俺達に公算でもしろと言うのか?」



「その通り、私は寛大でな。一度断られたからと言って二度目を拒絶しない。君達にはチャンスをやる。今すぐ投稿すればそこの四人は命を助けてやる。それとケント」



 メリッサはケントを名指しした。



 「私の元でその能力を発揮しないか。今なら私の補佐をさせてやる。待遇はいいぞ。何ならこの城を任せてもいい。どうだ。素敵だろ?」



「他の四人の命は保証してくれるんだな」



 俺は正直迷っていた。条件の良さはおいといても、メリッサの言う通り、俺は邪な勢力との親和性が高いのだ。このまま聖なる勢力に与してもいい扱いを期待できるかと言えば、そうはいかない。



 異端は案外いい。と言った建前であるが、おそらくこれは再び訪れた分岐点だ。慎重に考えたい。



「……」



「どうした返事はないのか?」



「これはゲームの受け売蹴りだが、一度裏切った者がもう一度裏切らない理由があると思うか?」



「……何?」



「大義もなく、主従の関係もなく、裏切った奴が転向した先で信じられるかという話だ。それはない。もう一度裏切ると疑うだろう。そうなれば閑職に追いやられるか、ひどくすれば殺される。それに何より――」



「何より、何だ?」



 俺は溜めに溜めて言う。実際のところ、これが本音だ。



「お前の能力が俺と被ってんだよ!」



「――ハッ!?」



 その場にいた者は目が点になるが、知ったこっちゃない。これは転移者にとって重要なことだ。



 特別なスキルを貰って、それで無双して、ウハウハ。それが転移転生者の特権だ。なのに、味方に丸被りの能力がある。そんなの耐えられるわけがない。



「死霊術? 邪なる土の魔法? かは知らないが、動く死体を生み出すなんて俺の能力と丸被りなんだよ! 敵にいるならまだしも、味方になんかいたら俺が目立たないだろ! 大事なことなんだよ。大事なこと。だから断固断る」



 俺がはっきりと主張を口にしたタイミングで、後ろにいたメリアの演唱が終わったようだ。



「トレース」



「ぬ?」



 メリアの唱えた呪文はメリッサのアンデッドの身体を白く包む。しかしターンアンデッドとは違い、アンデッドは消滅しない。別の術のようだ。



「おのれ! 追跡術か。これでは居場所が」



「敵の居場所を知るのは戦略上大事なことだ。それにしてもずいぶん遠くにいる。ここから三十キロも離れているじゃない」



 どうやら敵の居場所を探る術のようだ。便利な術だ。



「……どうやら交渉は決裂のようだな。ケント、後悔するなよ」



「後悔なんて昔からたくさんしてるぜ。だから学んだのさ」



 メリッサが負け惜しみを言うと、アンデッドが崩れていく。どうやら通信用のアンデッドだったらしい。


「さて、どうしたものか」


 俺はメリッサが去った後、そうぼやいた。

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