一般的徒然

タロウ

第1話

ニュースで桜の話題が流れなくなってから暫く。南の方ではもう夏日も観測されて、そろそろこっちでも衣替えも考え始める時分。桜と雨の合間の季節に食べたくなるものがある。


「いらっしゃい」


 山の中。綺麗とは言えない建物。今日も美味しいそばを打つ老爺。


「天ぷら蕎麦ひとつ」


 あいよ、としゃがれ声が聞こえてから何分か。運ばれてきた蕎麦と天ぷらを見つめて、写真を撮った。割り箸は上手く割れなかったけれど、気にせずに蕎麦を持ち上げる。蕎麦の味なんて良く分からないけれど、何もつけずに食べてみる。その後で如何にも美味しいといった顔をしてから、普通に食べ始めた。


「うまい」


 幸せだ。なんでこんなに美味しいんだろう。


「うまいなぁ」


 こっちはもっと美味いにちがいない。天ぷらを引っ掴む。たぶんこれはコシアブラ。綺麗な色だ。


「うんっまいなぁ……」


 幸せになった。 

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