第41話 技術部合宿のお知らせ
「そうか、ジジイから聞いてここに……。あんの口軽ジジイめ……」
ようやく真理華の興奮を抑えて、なんとか事情を聞き出した岩平は困った顔をして腕を組む。
「悪い事は言わん、すぐに帰れ! ここは今にもテロリスト的な奴らに狙われるかもしんねー場所なんだ。危険だ。家で大人しくしてろ……!」
二人が万が一にも真理論争に巻き込まれるのを心配した岩平は、すぐにでも二人を帰そうとした。
しかしその行動は、扉から新たに現れた人物によって阻止されることになる。岩平が扉を開けた先には、辺理爺さんが立っていた。
「そんな事は百も承知じゃ岩平。その上で儂が呼び出したんじゃよ。既に親御さん達には話せる範囲で説明してある」
「ジジイ!? それってどういう……?」
「既に真理論争は、隠しきれない段階へと達した。このままでは、無差別破壊も起きかねん。おまけに、この前のノイマンの言動から見て、奴らには儂ら技術部が監視されていた可能性だってあるのじゃ。もしそうだとするとこの先、人質だって取られかねないのじゃよ」
「なっ……!? 人質だと!?」
それを聞いて岩平はハッとなる。そういや、この前のフォノンとの戦いでも技術部の仲間がどうのとか勢いで言ってしまった気がする。さらにはフォノンだって、この学校の事を監視していたような言動が節々に見られていた。平気で街を盾にするような奴らだ。奴らなら、放っておけば本当に人質を取る行動を取るかもしれない。
「そうじゃ、だから申し訳ないが、真理華と数吉はしばらくウチで預かる事になった。この状況を打開するには、この体制のウチに何とか倒すしかないのじゃよ」
「えっへへ~、よろしく! お泊り会楽しみだね~❤」
「技術部合宿でやんす!」
事態の深刻さをまるで理解していない二人の声だけが明るく響く。どう説明したもんかなと考えあぐねる岩平だったが、ちゃんと説明するには何から話せばいいのかも思いつかない。
「……確かにそうかもしれないわね」
その時、口を開いたのはリーゼルだった。いつの間にか窓辺に移動していて、窓の外を真剣な面持ちで見つめている。
「何者かが、大勢この家の周りを取り囲んでいる気配を感じる。奴らの手下か、それとも新たな敵か……」
リーゼルの言う通りだった。どうやってか知らんが、敵は結界を破って、あっという間に家の中まで侵入して来たらしい。気付いた時にはもう既に、部屋の扉一枚向こうには何やら大勢の人間の足音がしていた。
「みんなは伏せていて! ここはアタシが片をつける!」
リーゼルの行動は早かった。どうやらもう、身体の本調子は戻っていたらしい。即座に扉を蹴破ると、槍斧を出現させて敵らしき兵士たちに向けて振りかぶった。
「うおおおおおおっ……!!」
「よせリーゼル! 殺すな! ソイツらは儂が招き入れたのじゃよ」
爺さんの怒声が響き渡る。その瞬間、リーゼルの手はピタリと止まった。何故ならばリーゼルはその時、扉の外の人物たちの正体に気付いたからである。
「こいつらっ……、警察の……?」
そこにいたのは大勢の警察機動隊だった。盾と小銃を構えて、狭い廊下にギッチギチに固まりながらこちらを警戒している。
「いやはや、中々に良い動きするじゃないの嬢ちゃん。ウチの鷹月警察にも一人欲しいくらいだぜ……」
奥から警察手帳を示して現れてきたのは、一人のオッサン刑事だった。刈上げ頭に灰色のコートを着て、いかにもうさんくさそうな顔をしている。警察手帳には、鷹月警察警部長の敦賀(つるが)厚志(あつし)と書かれていた。
「その娘が、マジシャンだかフィジシャンとかいう手品師か? 本当にいたとはネェ……。おじさん、興味が出てきちゃったよ。辺理先生……」
「手品じゃない。理論物理学じゃと何度も言うたじゃろうが!」
「すんません先生。おじさん、小難しい理論とかよく分かんなくって……」
どうやら、辺理爺さんとオッサン刑事は知り合いらしい。それどころか、その遠慮のないやり取りはどこか友人同士のようにも見える。突然の一連の出来事に、岩平たちはただ茫然と立ち尽くしてそれらを眺めている事しかできなかった。
「ごめんねぇ~、こんな試すような真似して驚かせてしまって……。でもまぁ、一応は全員分の銃弾は最初から抜いといたし、これも一つの訓練だと思ってサ♪」
どこか不真面目な印象はあるが、オッサン刑事の敵意は本当に無いみたいだった。弾を抜いてあるのも本当らしく、何も知らされていなかった体の部下たちが「そうだったのですか!? 警部どの!?」と驚いている。
「ま、立ち話もナンだからさ……。ここじゃ狭いし、とりあえず……、署まで来てくれる……?」
この事態は辺理爺さんが仕組んだプラン通りそのもののようだった。どうやら爺さんが警察に協力を要請して、情報をタレこんだらしい。署までの道中も、警察が厳重な警戒態勢のもとに護送してくれる事になった。念の為、舞子婆さんも含んだ6人である。婆さんは店番を離れるのを最初は嫌がっていたが、辺理爺さんが説得すると、意外にもあっさりと了承した。
もっとも、家の前にものものしい数のパトカーが止まっている光景は、端から見ると容疑者の連行にしか見えない状態だったが……。
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