第七十八話「シュエの軌跡 抜刀術」
◆
それから私とラフィークは、朝の訓練の為、大聖堂の中庭にある訓練施設に足を運んだ。
プリムラとセレソは訓練後の湯浴みの準備と、朝食の準備をしている。
私はラフィークの指示に従い、基礎体力をつける訓練から始める事になった。 簡単に言えば、中庭を全力疾走で往復したり、反復横跳びと言った、身体を作る為の運動ね。 やはりこの身体は、まだまだ体力的にも全然できてないので、最初はすごくしんどかった。
朝の基礎訓練を終え、湯浴みと朝食を済ませた後、予定通りフリッツ司祭の座学の時間となった。
フリッツ司祭様は昨日と同じく、大聖堂にある書庫へと私を連れ、そこで今日は魔法についての講義となった。 ちなみにプリムラとセレソも一緒で、フリッツ司祭様に自分達にも私の役に少しでも立つ様、魔法を教えて欲しいと願い出たのだ。
フリッツ司祭様はそれを了承し、今は三人仲良く並んで、フリッツ司祭様の講義を聞いていると言う訳。
「それでは、これより魔術についての講義を始めさせて頂きます」
そうフリッツ司祭様は前置きをし、まず私に確認を取る。
「シュエ様、シュエ様は魔術について何処まで知識をお持ちですか?」
「えっと、生活魔術って言えば良いのかな? 簡単な魔法ならある程度使えます。 村で教えてもらったので…」
「一度見せて頂いても?」
「はい」
私はフリッツ司祭様に言われるまま、マナを掌に集中させ、灯りを灯す魔法を発動させる。
「我ら神の信徒に光の導きを ライトボール」
私が唱え終えると、掌の上に拳程の大きさの光の玉が浮かび上がる。
「流石で御座います、シュエ様。 その歳でもう魔術を扱えるとは… これなら基礎の訓練は必要ありませんな」
「すごいです! シュエ様」「その歳でもう魔術が使えるなんて凄いです!」
フリッツ司祭様に続き、セレソとプリムラまでも手放しで褒めてきて、なんだかむず痒い… そこまで賞賛される事なのかな?
「二人も魔法は使えるんだよね?」
「はい、私たちは先輩の修道士に教えて貰って、先日やっと生活魔術までは使える様になったばかりです」
「普通、シュエ様の年齢で魔術が使えるのは、家庭教師を雇える貴族か、魔術師の家系の子供くらいで、伝手も何もない子供が、そう易々と覚えれる物じゃないんですよ」
セレソの言葉に付け足す様に、プリムラがそう説明する。
私の場合は両親が元貴族で、簡単な生活魔法なら扱えた。 なので、私が興味津々で教えて欲しいとお願いしたら、簡単に教えてくれたから気付かなかったけど、確かに普通の子供が、師事無しで魔法を覚えるのは困難だと思う。
「シュエ様、二人の言う通りです。 例え師事があったとしても、才能が無ければどうにもなりません。 シュエ様はその歳にして生活魔術を使いこなせている。 それはとても素晴らしい事です」
フリッツ司祭様にもそう言われ、私はなんだか照れくさく思いながら「そ… そうなのかなぁ…」と頬を掻く。
「そう言えば、何でシュエ様は魔術の事を、魔法って言うんですか?」
プリムラは、ずっと疑問に思って居たのか、唐突に質問してきた。
「え? だって魔術って言うと、なんか怪しい感じがするって言うか、怖い感じするけど、魔法って言った方が、なんか可愛くて夢があるじゃない?」
私のその説明の意味が理解できなかったのか、三人はそろって首を傾げる。
前世のイメージは、流石に伝わらないかぁ…… 魔法少女はあるけど魔術少女とは言わないよね… どちらかと言うと魔術老婆なイメージ。 毒りんごとか作りそう… ごめん。 これ多分三人には伝わらない…
「んー、 これは私が読んできた本のイメージだから、みんなには伝わらないかも…」
私が難しい顔でそう言うと、プリムラは「そうなんですね」とそれ以上は追求してこなかった。
実際にはこの世界の本じゃなくて、前世の世界の本でなんだけど… 私は心の中で苦笑う。
「では、シュエ様がそう言われるのなら、私共も魔術とは言わず、魔法として話しましょうか」
何となく私が魔術に良い印象をもってないと感じたのか、フリッツ司祭様はそう提案してきた。 私としては在り難いけど、そんなにあっさり魔術を魔法と言い換えても問題ないのかな? まぁ、私は断固として魔法と言うけどね!
フリッツ司祭様の提案に、プリムラもセレソも「「異議なーし!」」と賛成してくれた。
それから私たちは、フリッツ司祭様の指導の元、生活魔法の応用魔法から順に教えてもらう事になった。
◆
日も高く上り、正午を知らせる鐘の音が書庫に鳴り響く。 この大聖堂では、毎日午前十二時と午後六時に鐘を鳴らして、街の人に時を知らせている。 フリッツ司祭様は鐘の音を聞いて、魔法の講義の終了を告げる。
「シュエ様、今日の講義はここまでの様です。 昼食に致しましょう」
集中していたので、あっと言う間に時間が過ぎていたみたいだ。 私は「はーい」と軽く返事を返し、背筋を伸ばす。
「シュエ様。 昼食はお部屋で食べられますか?」
「それとも、食堂で食べられますか?」
プリムラとセレソが揃って私に確認を取ってきた。 二人は双子だけあって息ぴったり。 同時に喋っていないのに、繋がって会話が聞こえる。
「どうしようかな…… 何時も部屋に運んでもらってばかりだと悪いし、食堂で食べよっかな」
「「畏まりました」」
私たちは、本棚に今まで使っていた本を片付けると、フリッツ司祭様と別れて食堂に向かった。
◆
午後、二時間くらいゆっくりと昼食を摂った後、再び動きやすい格好に着替えた私は、ラフィークが待つ訓練場へと足を運んだ。
訓練場では、木剣を片手に素振りをするラフィークの姿があり、私を待っている間ずっと素振りをしてたらしい。
「ラフィーク。 待たせて御免なさい」
「シュエ様。 お待ちしておりました。 では早速ですが準備運動の後、軽く手合わせ致しましょう」
「いきなり手合わせですか?」
「はい。 シュエ様の剣の扱いの癖などを、まずは確かめさせて頂きたいのです。 それから訓練メニューを決めようかと考えております」
なるほど、確かにただ闇雲に型を教えるよりは効率的かもしれない。
「分かりました」
私はそう返事すると、軽く身体を動かしてウォーミングアップをする。
ラフィークから木剣を受け取り、抜刀の構えを取る。 この世界にない剣術だろうけど、私が慣れ親しんだ、身体に染み付いている剣術だ。 果たしてこの非力な身体で、どこまで動けるのか分からないけど、やれるだけやって見よう。 問題があるとすれば刀でないのと、鞘がない事くらいだけど、自分の手を鞘代わりに剣先を弾けば、ある程度再現はできるはず。
私は腰を落とし、ラフィークの動きを覗った。
「シュエ様、その構えはなんですか?」
「良いの。 これが私なりの剣術だから」
「はぁ……」
ラフィークは呆れた顔をして居たが、木剣を後ろ手に構える私に対し、木剣を真正面に構える。
「ではシュエ様。 好きな様に打ち込んで来てください」
私は「宜しくお願いします」と一言返すと、深呼吸を一つし、意識を集中する。
動かないラフィークに対し、私は一息に間合いを詰めると、剣先を弾いて抜刀する。 やはりこ身体とこの木剣では、抜刀速度に限界があった。
ラフィークは私の予想外の太刀に一瞬驚いた顔をするも、さすがエリート騎士、私の木剣を難なく受け止めた。
さすがに体格差があり、力も全然違う私の木剣は、当たった反動で木剣が弾き飛ばされてしまう。 握力がそんなにないから仕方ないのかもしれないけど、これじゃ真面に戦えない。
ジンジンする手を見ながら、今のこの身体で抜刀術は難しいと、改めて認識した。
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