第七十四話「シュエの軌跡 御世話係と護衛」
◆
私と両親は食事の後、教皇様の側近を勤める、フリッツ司祭様に大聖堂の中を案内してもらった。
教皇様は、私達が大聖堂で暮らす事が決まった事で、関係各所の調整や手続きがあるらしく、食事の後は別行動となった。
案内された大聖堂には、幾つもの部屋や設備があり、礼拝堂だけでも三つも併設されていて、書庫や訓練場と言った必要な設備は全て整っていた。 最後に私と両親はそれぞれの私室に案内され、準備が整うまでそこで待機する事となった。
流石皇国のトップが住まう大聖堂だけあって、部屋の造りから調度品まで、趣向が凝らされている。 わざわざ両親で一室、私の為だけに個室まで用意してもらい、今までの村での暮らしとかけ離れすぎていて、なんだかこの部屋は落ち着かない。
一応両親とは隣同士の部屋なので、そのあたりは気を使ってくれてる見たいだけど、なんかそこまでしてもらってすごく気が引ける……
フリッツ司祭様は私に少しの間、この部屋で待つ様に言い残すと、両親を引き連れて部屋から出て行った。
いきなりの事で、時間をもて余してしまう。 私は外の景色を眺めようと、部屋の窓に近付き、眼下に広がる景色に思わず声を漏らした。
「はわぁ… 綺麗……」
窓の外に広がる聖都の街並みが、夕陽を反射して朱くそまり、都を流れる川がキラキラと輝いている。
山頂にある大聖堂だけあって、遠くまで見渡せる。 地平線へと沈む夕陽がとても神秘的に見えた。
「もう、夕暮れ……」
思ってたよりも時間が経ってた見たい…
私が窓辺でボーとしてると、フリッツ司祭様が二人の少女を引き連れて戻って来た。
年の頃は私よりも五つか六つは上かな…… 顔がそっくりで背丈も同じなので双子っぽい。 違いと言えば黒髪に桃色のメッシュが入っているか、水色のメッシュが入っているかの違いのみ。 修道服を着ているので、修道女なのは間違いなさそう…… フリッツ司祭様は私に二人を紹介してくれる。
「シュエ様、この二人がシュエ様の身の回りのお世話をする事に決まりました、プリムラとセレソです。 彼女達はこの大聖堂に勤める者の中で、最年少の十一歳の者達です。 まだまだ未熟ではありますが、歳も近い事もあり、シュエ様にとって、良き話し相手になれるかと存じます」
「プリムラと申します」「セレソと申します」
二人の修道女はそう言って名乗ると、深々と頭を下げる。
桃色のメッシュの少女がプリムラ。 水色のメッシュの少女がセレソと言う名前らしい。
私も「よ… 宜しくお願いします」と挨拶を返す。
「何かあれば彼女達にお申し付け下さい」
「有り難うございます」
「では、二人共、後の事は頼んだぞ。 くれぐれも粗相のないようにな」
「「はい。 司祭様」」
フリッツ司祭様はそう言い残すと、二人に後を任せて立ち去った。
いきなり世話役と言われても、どうしたら良いか対応に困るんですけど……
「「シュエ様。 これから宜しくお願い致します」」
「こ… こちらこそ宜しくお願いします」
再び頭を下げる息ぴったりな二人に、私も再度頭を下げる。
「あの、えっと… 良ければなんですが、私達にシュエ様の事を色々と教えて頂けませんか? 私達、シュエ様のお役に少しでもたちたいので…」
二人は初対面の私と、少しでも打ち解けようと、そう話しを切り出した。 きっとお姉さんとしてリードしようとしてくれてるのかな。 その一生懸命さが伝わって来る。
前世を含めると、私に方がお姉さんなんだけどなぁ…
私は心の中でそう苦笑しながら、二人をたてて色々と話しを弾ませた。
私が今まで住んでた村での話しや、魔法が少し使える事。 好きな食べ物や娯楽書の話しなんかもした。
流石に私がこの歳で、色んな本を読破していて、魔法の知識もあり、村で神童扱いされて居た事に、二人は驚いて居たが、私が勇者に選ばれた事を思い出して「流石、勇者様です」と変に納得していた。
それから私は、二人の事を色々と教えて貰った。
二人はやはり双子だった見たいで、プリムラの方がお姉さんでセレソが妹。
何でも、双子は不吉の象徴とされる事もある見たいで、赤ちゃんの時に、この大聖堂の近くで捨てられて居たらしい。 それをたまたまフリッツ司祭様が見つけ、哀れに思った司祭様がこの大聖堂で育てた。
今はこうして修道女として日々修行しているのは、フリッツ司祭様に恩を返す為なんだって。 この子達すごい健気!
そんなこんなで、何となく二人とも打ち解けてきた所で、部屋の扉がノックされ、外からフリッツ司祭様の声がした。
「シュエ様、フリッツにございます」
「あ、ちょっと待って下さい、すぐに開けます」
そう言った私が動くより先に、プリムラが扉に向かい、フリッツ司祭様を迎え入れる。
「シュエ様、お待たせ致しました。 準備が整いましたのでご案内致します」
フリッツ司祭様はそう言うと、私を先導して教皇様の待つ部屋へと案内してくれた。
◆
「教皇様、シュエ様をお連れ致しました」
フリッツ司祭様は扉をノックするとそう言い、中に声を掛ける。
「入りたまえ」
中から声がすると、扉を開き、私を中へと誘導する。
「シュエ様、お呼び立てして申し訳ありません。 どうぞお掛け下さい」
私は教皇様に促されるままソファーに座ると、私の後ろを付いてきたプリムラとセレソが、お茶を用意してくれる。
「あ、有り難う…」
私はお礼を言うと、先程までお喋りしていて渇いた喉を潤す。
「さて、シュエ様。 シュエ様が勇者となられた事を、国内外に報せる為、明日の正午より、祝賀式典を執り行います」
「式典?…… ですか?…」
何それ… 聞いてない…
「シュエ様の御披露目が目的ですので、我々が紹介したら聖剣を掲げて下さるだけで、十分に威光が伝わるかと思います。 ですので、あまり緊張されなくても大丈夫です」
そう言われ、ホッと胸を撫で下ろす。
と言うか、教皇様って読心術でも使えるのかな? 私の懸念を言う前に全て解決されてる気がする……
「それから式典には、勇者様となられたシュエ様の護衛として、聖騎士が身辺警護に当たる事になりました」
そう言うと教皇様が合図を送る。
「入りたまえ」
教皇様に呼ばれ、純白に金の装飾が施された、立派な鎧に身を包んだ騎士達が部屋へと入って来て、私の前で膝を折る。
総勢十五人。 広々としていた部屋が一気に暑苦しくなった。
そして、先頭に居た一際豪華な鎧に身を包んだ騎士が、口上を述べる。
「お初に御目にかかります、勇者様。 勇者様の近衛騎士団長と、剣技の指導を勤めさせて頂く事になりました、聖騎士長のラフィークと申します! 御身は我等近衛騎士団が、命に替えてもお護り致しますので御安心下さい」
それに付け足す様に、教皇様は彼を紹介してくれる。
「シュエ様、このラフィーク殿は十八歳と言う若さでありながら、皇国のトップ騎士まで登り詰めた程の腕の持ち主で御座います。 必ずやシュエ様のお役に立ちましょう」
若い騎士団長だと思ったら、まさかの皇国のトップ騎士。 エリート中のエリートだった……
「よっ、宜しくお願いします」
私は慌てて頭を下げる。
「こちらこそ、勇者様のお役にたてる様、最善を尽くさせて頂きますので、宜しくお願いします」
私が頭を下げた事で、ラフィークさんも頭を下げ返して、そう答える。
「ラフィーク殿、シュエ様の事を頼んだぞ」
「はっ!」
教皇様の言葉に、ラフィークさんは短く返事をする。
「さぁ、シュエ様。 今日は色々とあり、お疲れ様かとお見受けします。 食事を部屋まで運ばせます故、今日はゆっくりとお休み下され。 それから、お預かりしておりました聖剣も、後程お部屋へとお持ち致しましょう」
「あ… 有り難うございます」
それから私は、プリムラとセレソに先導され、護衛となったラフィークさん率いる聖騎士達を伴って、自室へと戻ったのだった。
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