第三十八話「スゥーミラとダリの街 前編」

 ◆


 私の名前はスゥーミラ。 ヒーラーとして冒険者を続けている。

 二年前にグローリアの街で起きた魔物のスタンピードに巻き込まれ、それが切欠で知り合った私のナイト様、ヴィリー様と共に今は旅を続けている。

 ヴィリー様はバロンメダルの凄腕冒険者で、知り合ってから色々教えて貰って、私もやっと一流と言われるエースメダルの冒険者になれた。

 これも全てヴィリー様のお陰、私は生涯この方に尽くそうと心に決めている。


 私とヴィリー様は今、大陸を旅をして東の地、タルタスタ帝国の北東にある竜の街、ダリに訪れて居た。

 何故この街に訪れたかと言うと、ヴィリー様が請け負った、とある調査依頼の為である。

 なんでも、古代竜の血と言う、万病に効くと噂される神薬が存在するらしく、その噂が本当かどうかを確かめる事と、もし実在するなら、それを手に入れる事が依頼の条件らしい。

 名前から察するに、そう易々と入手できる代物とは思えない。 ヴィリー様が何故この依頼を受けたのか本当に謎です。 ですが、私はただヴィリー様をお支えする身… 地の果てだろうと付き従うのみです。


「ヴィリー様、やっとダリの街に着きましたね。 これから宿を探しますか?」

「ああ、そうだな。 宿の方は任せても良いか?

 俺はこの街ギルドに顔を出して、少し情報を集めて来ようと思うんだが…」

「分かりました。 宿は私が手配して来ます」


 やった! これでダブルベットの雰囲気の良い宿をそれと無しに選んでヴィリー様と一夜を共にできる❤


「くれぐれも同じ部屋は無しだからな。

 ちゃんと別々の部屋を取れる宿を探すんだぞ」


 あうっ… 釘を刺された…


「ええー 良いじゃ無いですか、たまには一緒(のベットで)寝ましょうよぉ…」

「断る! 俺は一人が好きだと何時も言ってるだろ」

「それなら私を抱き枕と思って接してください!」

「人の話を聞け…」


 まったく、ヴィリー様は初心うぶなんだから…

 まぁ… 考え様によっては、シングルベットの方がより密着できると思えばアリかも… 一人部屋で二人で泊まるとか考えただけで鼻血が…

 そんな私の様子をヴィリー様はジト目で見ている。 否! 私をその奇麗な瞳で見つめている! ここはその視線に応えるべく頬を染めて見つめ返すしか無いわ!

 そんな私にヴィリー様は鞘に入った剣で私の頭を軽く殴る。


「痛っ」

「バカやってないで、ちゃんとしろ。 本当に置いて行くぞ」


 私は叩かれた頭を抱えながら半泣きで「うぅ…」と項垂れる。


「お母さんにもたれた事ないのにぃ!」

「知るか!」

「叩くならお尻にしてください!」

「……これ以上変な事言うと斬り伏せるぞ」


 ヴィリー様は額に青筋立てて剣に手をかけている…

 あ、これダメだ… 本気で怒ってる…


「ごめんなさいですぅ…」

「はぁ… ホントお前はなんなんだ…」

「私は私です。 あわよく既成事実を作って、ヴィリー様と結婚しようと企んでいる普通の女の子ですよ?」

「本音がだだ漏れだぞ…」


 あらやだ、私ったら…


「はぁ… とにかく宿の方は任せたぞ。

 宿の手配ができたらギルドに来てくれ。 それから夕食にしよう」

「はいですぅ!」


 ◆


 それから私はヴィリー様と別れて、宿を探し廻った。

 勿論、夜這い出来そうで雰囲気の良い宿を選ぶ事は忘れない。

 ちゃんと別々の部屋を取った。 ただ、ベットはセミダブルくらいにして、私のスペースはちゃんと確保できる宿に限られる。 あとは宿の人に理由をつけてスペアキーも用意してもらうだけで、何時でもヴィリー様の寝室に忍び込める。

 私って天才!

 何軒か廻って私の条件に合う宿を選別。 部屋を確保して待ち合わせ場所のギルドへと向かった。


 そして、もうすぐギルドに着くと言う所で、髭の生えた男に絡まれる少年少女を見つけた。

 髭の生えた男は、腰に剣を差し、良くある冒険者の軽装を装備している。 恐らく底辺の下級メダルの冒険者かな。 どれも粗末な装備にしか見えない…


「痛ぇなガキ! 何処見て歩いてんだよ!」


 髭の生えた冒険者はそう言って、その子供達を威圧している。 どうやらその子供達のどちらかが冒険者にぶつかったのが原因かな? 少女は少年の後ろに隠れて怯えているのか、じっとその男を睨み付けている。

 少年の方は執事服を着て居て、その年齢にそぐわない綺麗な装飾の施された眼帯を着けている。 そして、少女を庇う様にその冒険者との間に立ち、毅然とした態度でとても落ち着いている。

 執事服を着ていると言う事は、フードのついた外套マントを纏った少女は、お忍びで街に出た貴族のお嬢様かなんかかな?… 恐らく髭の生えた冒険者は、金目の物を巻き上げるつもりかもしれない。

 大人が近くに居ないからって、あんな小さな子を脅して、恥ずかしくないのかしら…


「申し訳ありません。 僕とお嬢様はこの街が始めてでして、注意が行き渡らずお嬢様がぶつかってしまい、ご迷惑をお掛けしました」


 眼帯の少年は礼儀正しく謝罪の言葉を述べる。

 どうやらぶつかったのはフードの少女の方。 おおむね初めての街で、色々と興味を引かれる物を見ててぶつかったと言ったところかしら…

 しかし、髭の生えた冒険者は、はこれ幸いと子供達に因縁をつけはじめた。


「おぉ痛ぇ… こりゃ骨折れたかもしれねぇなぁ。

 どう責任とってくれる気だ?」


 子供にぶつかられた位で骨折れるとか、骨柔すぎです。

 はぁ… これは見て見ぬふりなんて出来ないですね…


「ちょっとそこのアナタ!」

「んぁ?」


 私が見かねてその冒険者の男に声を掛けると、男は威圧する様に返事を返す。


「なんだぁ? こっちは取り込み中なんだよ。 女は引っ込んでろ!」

「こんな小さな子に絡んで、恥ずかしく無いんですか?」

「うるせぇ、お前には関係ねぇだろ!」


 そして冒険者の男は私を一瞥すると、ニタリと笑い言葉を続ける。


「それとも何か? お嬢ちゃんが代わりに治療費を払ってくれるのか?」


 まったく、こんなのが居るから冒険者の地位が上がらないのよ…


「良いよ。 私がこの子達の代わりにあなたの怪我を直して上げる。

 私、こう見えてもエースメダルのヒーラー冒険者なんです。 怪我を直すのはお手の物なんですよ」


 そう言って男に詰め寄る。


「さぁ、怪我した箇所を見せてください」

「チッ… 魔術師かよ」

「そうですけど、何か不都合でも?」


 冒険者の男は返す言葉が見つからす、「興醒めだ」と、捨て台詞を残して去って行く。

 男の背中を見送って居ると、執事服を着た少年がお礼を言ってくれた。


「あの、助けて頂いて有り難う御座います」

「良いのよ、気にしないで」

「ほら、アイエル様もちゃんとお礼を言いましょう」


 少年がそう少女に促すと、少女は少年の陰から顔を出し、お礼の言葉を言ってくれる。


「助けてくれてありがとう… です…」


 近くで見ると、少女はとても奇麗な目をしていた。

 左右で色の違うオッドアイで、不思議な色の混じった瞳をしている。

 なにこの子可愛い…

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