アイエル様の最強執事 ~魔道を極めた元殺し屋は、それでもお嬢様の執事です~

にぃ!

第〇章 黒き死神と呼ばれた男

プロローグ前編「黒き死神への招待状」

 ◆


 漆黒の闇が街を覆う。

 サイレンの音が鳴り止まないこの街は、殺人と犯罪が横行し、至る所に血痕や死体が転がる。

 自治が成り立たないこの街で、今日もまた一人、名も知らない人間が血を流して果てる。

 そんな光景を誰も気にも留めない。


 孤児として生まれた俺は、生きる為に奪い、時には人を殺し続けてきた。


 この街に生きる者は皆、心が荒む。

 そうしなければ、この街では生き残れないからだ。


 弱肉強食がこの街の掟。


 俺も何時かは名も無き屍へと変わる。

 それが何時になるかは誰にも分からない。

 それがこの街の摂理。


 ただ、生きるために磨いた力はある日、この街を牛耳る組織のボスの目に留まり、俺の人生を一変させた。

 生きる為にその日を過ごしていた俺の才能を、ボスが見出し、組織に組み込んだのだ。 そして、殺し屋として訓練を受けた俺は、次第に頭角を現し、組織に貢献する様になった。


 そして何時しか俺は、黒き死神と呼ばれる凄腕のスイーパーとして、裏社会に名を轟かせる事になった。


 ◆


 荒んだ街で、唯一高層ビルが立ち並ぶ一角。

 その高層ビルの一室に俺は呼ばれてやってきた。

 真っ黒なスーツに身を包み、黒髪をオールバックに決め、襟を正す。

 俺の容姿はお世辞にも貫禄があるとは言えない。

 組織に入った当時は、まだ十歳になったばかりで、小さい体格を生かして大人を翻弄していた。

 今でこそ身長も伸び、力で相手を制する事ができる様になったが、如何せん童顔なこの容姿のせいで、未だに舐めた態度をとられる。

 この世界は力がすべてだ。

 舐められない努力は惜しまない。 たとえ背伸びした青年に見られたとしてもだ。


「センパイ? 入らないんです?」


 そんな俺の心情を知ってか知らずか、隣に立つ少女が不思議そうに見上げてくる。

 彼女は組織での俺の直属の部下で、二年前からボスの紹介で俺のサポートに回ってもらっている。

 名前は如月きさらぎ 雪桜せっか。 この国では珍しい黒髪の日本人だ。

 なんでもボスの旧友の娘らしい。

 日本の合気道を習っていたらしく、体術や体裁きはなかなかのものだ。

 この二年間、俺の下で鍛えた事もあり、それなりにスイーパーとしての腕も磨けている。

 ボスが彼女を俺の下につけた理由がなんとなくわかる気がする… いろんな意味で……

 俺はため息を一つつき「入るか…」と気を取り直して扉をノックする。


 ――コンコンッ――


「黒です。 ボス」


 そう俺が言うと、中から男が扉を開け、俺の顔を確認すると中へと通す。


「すまんな黒、急に呼び出して」

「いえ」

「まぁ座れ」


 ボスに促されるままにソファーに腰掛ける。

 雪桜せっかは俺の後ろに立ち、姿勢を正す。

 向かいにボスが腰を下ろし、葉巻に火をつけた。


「おい、例の物を」


 扉の近くに立っていた男は「はっ」と返事をすると、すぐに資料を机の上に並べる。


「近頃、隣のシマを治める組織が、俺のシマにちょっかいかけてきていてな…  このままじゃ組織の面子にも関わる。 そこで黒、お前にこいつ等を始末してきてもらいたい」


 そう言ってリストを広げるボス。


「それにこいつ等は、組織を拡大する為に、どうやら俺の命も狙っているらしい。 まったく舐めた連中だ。 この辺り一帯を治める俺に戦争ふっかけてくる気なんだからな、許しちゃ居れん。 すまないが頼まれてくれるか?」


 俺は一通り目を通し、「勿論です。 ボス」と頷く。


「明日、部下を二十人程つける。 奴等のアジトをつぶしてきてくれ」

「分かりました」


 俺はそう言って席を立つ。


「セッカ、お前も黒のサポートを頼む」

「りょーかい」


 ボスは後ろに控える雪桜せっかにも声をかけ、二人の様子を見ながら何を思ったかニヤリと笑い、


「ところで黒、セッカとはどこまで行ったんだ?」


 と、とんでもないことを言い出す。


「ぼっ、ボス! な、何がですか?」


 焦って声が上ずってしまった。

 ボスはため息を一つこぼすと「その調子じゃ、手も出してないみたいだな…」と、呆れた微笑みを浮かべる。

 そんなボスに便乗する様に、後ろに立つ雪桜せっかが応える。


「そうなんですよ小父様。 私がこんなに尽くしてるのに、センパイ全然振り向いてくれないんです。 失礼しちゃいますよね」


 と、何故か雪桜せっかが頬を膨らましてボスに訴えかける。


「ハハハッ、相変わらず殺しの事以外は、朴念仁ぼくねんじんの様だな」


 そう言って、ボスは笑う。


「黒、お前の事を本当の息子と思っているから心配してるんだぞ」


 苦笑いを浮かべるボスに、俺はどうしたものかと考えてしまった。

 確かに、雪桜せっかは俺には勿体無いくらいよくできた娘だ。 気立ても良く、この二年で美しく成長した。 だからと言って、ボスの親友の娘に手を出す勇気は俺にはない。


「お、お言葉ですがボス。 流石の俺も、ボスの親友の娘に手なんて出せないですよ…」


 言って苦笑する。


「好きおうておるなら、ワシは構わんと思うがの。 それに相手がお主なら、奴も文句ないじゃろう… それとも、好みじゃないのか?」

「いえ、そういう訳では…

 それに、セッカだって相手を選ぶ権利くらいありますよ」


 その話を聞いていた雪桜せっかは、恥ずかしげもなく、とんでもない事を口にする。


「私、センパイの事好きですよ?」

「ぶへっ」


 思わず変な声が漏れてしまった。

 ボスは、「ハッハッハッ」と豪快に笑い、真剣な表情で俺に問いかける。


「黒… お主、女子にここで言わせて恥ずかしくないのか?」

「いや、かなり恥ずかしいです」


 俺は頬を染めながらそう答えると、ため息を一つつき、頬を掻いて少し考える。


「セッカ」

「はい」

「その、なんだ… 良かったらだが今回の仕事が終わったらディナーでも一緒にどうだ?」

「いいんですか? センパイ」


 雪桜せっかは俺の顔を覗き込んで心配してくる。


「せめてプロポーズくらい、ちゃんと俺からさせろ」


 俺が照れながらそう言うと、雪桜せっかは頬を染め、嬉しそうに頷いた。


 ◆


 翌朝、俺は私室で銃器の確認を行う。

 俺の手にはシグザウエルP二二六が二丁、それを分解し不具合がないか確かめる。 手馴れた作業で組み立てなおし、マガジンを装填し、確認を行う。 そして予備のマガジンに弾を詰め直していく。

 一通り作業を終えた俺は、雪桜せっかと部下二十人を引き連れ、情報にあったアジトに攻め込んだ。

 場所は貨物コンテナが詰みあがる港の一角。

 そこの倉庫が情報にあった組織のアジトらしい。


「お前達は周りを固めろ。 俺が一人で中に乗り込む。 逃げ出した奴はお前達が始末しろ」


 俺の指示に、部下達は返事を返す。

 雪桜せっかは状況を確認すると、俺に確認を取ってくる。


「じゃ、私はみんなを狙撃でサポートするね」

「頼む」


 そうして俺は、全員が配置についたのを確認すると、一人で扉の前を見張っている男の前までゆっくりと歩いて近づく。

 扉を見張っていた男は俺に気づくと警戒を露わにし、叫ぶ。


「なんだお前! そこで止まれ!」

「断る。 お前達のボスに会いに来た。 おとなしく通してもらおう」


 俺がそう言うと、見張りすぐさま銃に手をかけ叫ぶ


「なんだてめぇ、殺されてぇのか? んあぁ?」


 しかし次の瞬間、男の手から銃は消えていた。


「素人が玩具にする物じゃないな」


 そう言って銃から弾の引き抜き、地面に転がす。

 その光景を見たもう一人の見張りは、銃をすぐさま引き抜き発砲…

 しかし、倒れたのは発砲したと思った男の方だった。

 眉間を綺麗に打ち抜かれ、即死している。


「殺る気でいるなら相手になるが、殺られる覚悟はしておけよ。

 これはお前達と、お前達のボスへの警告だ」


 目にも留まらぬ速さで仲間を殺された見張りの男は、その光景にみるみる顔を青ざめさせる。


「さぁ、答えろ、お前達のボスはここに居るのか?」


 殺気を放ち、見張りの男を脅す。

 しかし、先の発砲音で駆けつけた仲間が、自動小銃を向けて発砲してきた。

 俺は、それを半歩ずれて弾を避け、そのまま自動小銃を発砲してきた男を撃ち殺す。

 その光景を建物の中から見ていた男の仲間達は、中からコチラの様子を覗っている。 俺は面倒になったので、見張りの男の首を掴み、持ち上げるとそのまま扉の中へと踏み入った。

 周囲には木箱やドラム缶の陰に隠れ、コチラにサブマシンガンの照準を合わせた男たちが待ち構えていた。


「どうやら、お前もお前の仲間達も、案内する気がなさそうだな?」


 そう言って首を締め上げていく。

 仲間達の目の前で、男は泡を吹きながら絶命した。

 俺は臆することなく中の男達に問う。


「お前達のボスはどこだ?」


 物陰に隠れながら、男達の一人が答える。


「言う訳ねーだろ。 お前、どこの組織のもんだ? この人数相手に一人で勝てると思ってるのかよ」


 威勢よく吠える男。 男の仲間達は油断無くコチラに銃口を向けている。


「ああ、自己紹介がまだだったな。 黒と言えばお前達でも理解できるか?」

「お前があの黒き死神かよ… たかが拳銃でサブマシンガンで武装した俺達と、殺り合おうってか?」


 言って男は笑う。


「ああ、そうだな、この程度の人数なら拳銃は要らないな。 弾が勿体無い…」


 そう言うが早いか、銃口を向けていた男達が一斉に倒れた。

 その男達の眉間には小型のナイフが綺麗に突き刺さって絶命している。 一瞬で抜き放った投げナイフが男達の命を一瞬で奪ったのだ。

 そして瞬時に身を潜めていた男の場所まで駆けると、こめかみに銃を突きつけ、もう一度男に問う。


「お前達のボスはどこだ?」


 男は急に銃を突きつけられ、両手を挙げ、銃を捨てて降参する。

 冷や汗を流し「化けもんかよ…」と愚痴をこぼす。


「俺達の負けだ…」


 そう言って男は笑う。


「まぁ、試合には負けたが、勝負は俺達が勝たせてもらうがな」


 意味ありげに笑う男に、俺はいやな予感がした。


「どういう意味だ?」

「答える義理は無ぇ」


 そう言って男は仕込銃を取り出し一矢報いようとしたが、銃を取り出した時点で俺は引き金を引き絞っていた。

 男はそのままゆっくりと倒れる。


「チッ…」


 俺はすぐさま外で待機している部下達の許へと駆ける。


「招集だ!」


 そう言い、俺のハンドサインで部下たちがすぐさま集まってくる。


「お前達、ボスの今日の予定を知っている奴はいるか?」

「どうしたんです義兄貴? 珍しく慌てて…」

「センパイが慌てるなんて珍しいですね」

「どうやら組織に内通者が紛れ込んでいる可能性がある。 ここの連中は囮だった。 ボスの身が心配だ、急いで合流したい」

「確か小父様は今日、隣町で会合に参加する予定だったはずです」

「急ぐぞセッカ、場所は分かるか?」

「はい」


 そして俺達は急ぎ、隣町の会合場所へと車を走らせたのだった。


 ◆


 会合場所に到着した俺達は、その惨状に目を疑った。 会合場所に指定されていた飲食店が、建物とと吹き飛ばされ、辺り一面瓦礫と死体の山だったからだ。


「なんて事だ…」


 部下の一人がつぶやく。

 隣に立つ雪桜せっかもあまりの惨状に言葉を失っている。

 この惨状ではボスの安否は絶望的であろう… 俺は近くに居た、辛うじて被害を免れた関係者と思わしき男に事情を聞くべく、男の胸倉に掴みかかり問い詰める。


「これはどういう事だ! 護衛は何をしていた!」


 男はすごい剣幕で捲くし立てる俺に怯え、額から血を流し、吹き飛ばされた時に痛めたであろう左肩を抑えながらも辛うじて答える。


「わ、分からねぇ……

 突然辺り一面が光に包まれて、気が付いたらこの惨状だったんだ…」


 男の話を聞いて思い当たるのは、何者かによる超長距離爆撃。

 しかも軌道音もすることなくと、いきなり光に包まれたという事は、ステルス性のあるミサイルになる。 そんな代物、一介のマフィアに用意できるものじゃない。 どこかの国家、それも大国の影が窺える…

 俺は「チッ」と舌打ちをし、惨状を確認する。


「お前達、生存者を探せ!

 ボスもまだ生きているかもしれない… 急げ!」


 俺の指示の下、部下達は急いで瓦礫を除け、救命活動を開始する。

 少しして、雪桜せっかの取り乱した声が辺りに響いた。


「小父様! いや… 小父様、目を開けて!」


 そこには、血塗れで息もなく、無残な姿となったボスの姿があった。

 雪桜せっかはそっとボスを抱き起こし必死に呼びかける。 見るからに即死の状態だった。

 涙を流し、必死にボスを揺さぶる雪桜せっかの肩をそっと抱き寄せる。


「センパイ… センパイ小父様が…」

「………」


 俺は無言で首を振り、雪桜に語り掛ける。


「ボスはもう……

 すまない… 俺がもっと早くに気が付いていれば……」


 そう言って、雪桜せっかごとボスを抱きしめる。


かたきは必ず取ります… ボス」


 そう言うと、そっと手を放し立ち上がる。


「セッカ… 辛いだろうが後を任せてもかまわないか?」


 俺の言葉から何かを感じ取ったのか、雪桜せっかは涙をぬぐうと静かに頷いた。

 そして俺は独り、この事件の犯人であろう組織の情報を探るべく、組織に入ってからの付き合いになる、ある情報屋の許へと向かった。


 ◆


 一歩大通りを入ると、スラム街に面する大人の欲望が渦巻く娼館街。 艶かしい格好をした娼婦達や娼婦を買いにきた男が道に溢れ、バーや斡旋の店が立ち並ぶ。

 俺はそんな娼館街を、娼婦達には目もくれず目的のバーに向かう。

 道中娼婦に声をかけられるが、俺の放つ殺気に飲まれ、言葉をにごして去っていく。

 目的のバーに到着すると俺はためらう事なく店に入った。

 店の中では、数人の男と女が怪しげに酒を酌み交わしていて、俺が扉を開けると俺に視線を向け、女は値踏みする様に俺の容姿を見、男は俺の容姿を見てどう料理しようかと思考を巡らせる。

 俺の容姿が童顔な事もあり、だいたいこういう場所では絡まれる。 案の定一人の男が酒に酔って俺にからんできた。


「よう、坊主。 お前みたいなガキが遊ぶ場所じゃねーんだよ。 殺されたくなかったら有り金全部置いてけ」


 言ってナイフを突きつけてニタリと笑う男。

 俺は容赦なく殺気を放ち、男を壁に叩きつける。


「がはっ」


 男は一瞬で気を失い、その光景を見た男達はさっきと打って変わって視線を逸らす。


「相変わらず、ここの店の呼び鈴は変わっているな」


 物音を聞き、この店のマスターが顔を出す。

 俺の顔を見て、マスターはため息を漏らし、店員に気絶した男を捨ててくる様に指示し、俺に愚痴をこぼした。


「毎度お前は… 普通に店に入ってこれんのか…」

「普通に入ったら毎回違う呼び鈴が鳴るもんで、俺も困ってるんだがな」


 言って俺は苦笑する。


「まぁ、いつまでも入口にいても邪魔だ。 奥へ案内しよう」


 マスターは俺を奥の個室へと案内すると「いつものでいいか?」と確認を取り、特製カクテルを作る。

 暫くして、俺の居る個室に酒を届けると、自分もワインを入れて向かいのソファーに腰掛けた。


「で、今日はどういった用件だ?」

「最近、組織のシマを荒らし回っている連中の情報が知りたい」


 そう言って札束をマスターの前に差し出す。


「お前が情報を知りたがる位だ。何があった?」

「先ほど、ボスが強襲を受けた。

 偽の情報を掴ませて俺を動かし、ボスと俺を分断した上で確実に成功する様に仕込んでいた。 しかも軍が保有するであろうミサイルによる攻撃でだ。

 そこまで周到に用意できる敵対組織なんて今まで居なかった。

 おそらくバックには国が絡んでいるはずだ。 ここから先は俺の仕事だ。 情報が欲しい」


 俺がすべて説明すると、マスターは一考し、


「なるほどな… 少し調べる。 明日まで時間をくれるか?」

「分かった」


 俺が了承すると、マスターはワインを飲み干し、金を回収して席を立つ。


「お前を本気で敵に回すとは、相手もなかなか度胸があるな」


 言ってマスターは苦笑し、個室を出ていく。

 俺はカクテルを飲み終えると店を後にした。


 ◆


 翌日、俺はボスの葬儀に顔を出すと、その足でそのままマスターの店に再度足を運んだ。

 今日は昨日絡んできた男の件もあり、常連が俺の素性を知ってかどうかは不明だが、客のほどんどは俺の顔を見るなり視線を逸らした。

 呼び鈴が鳴らないのは、それはそれで寂しいな…

 そんな事を思いながら近くに居た店員に話しかける。


「マスターはいるか?」


 店員はすぐさま「お呼びします」と奥へと姿を消す。

 しばらくして、マスターが店の奥から現れた。


「来たか、黒… 奥で話そう」

「ああ」

「酒は要るか?」

「いや、今日は情報をもらいに来ただけだ。 すぐに仕事に向かうつもりだからな」

「真面目な男だ」


 言ってマスターは苦笑する。

 マスターと俺は昨日の奥の個室へと向かう。


「では、俺が仕入れた情報を説明する」

「頼む…」

「ミサイルの件は、この国の大統領が絡んでいる事が掴めた。

 そして、その裏で手引きしているのはブラッドレイン。 血の雨と呼ばれる殺し屋の男だ。

 北部の方ではお前と同じく、相当名の知れている殺し屋らしい。 どうやらそいつが大統領の家族を人質にとり、ボスの密会の情報をリークしてそこを狙わせたらしい。 大統領からしても、マフィアは消したい存在だから動いたんだろう…」

「なるほどな……」


 俺は頷く。


「ワシの集めた情報だと、ブラッドレインは一匹狼の殺し屋で、どこの組織にも属していないらしい。 今回お前を誘導した組織とは利害の一致で一時的な協力関係だと踏んでいる。

 ちなみに、シマを荒らしている組織の名はミッドレイ。 本部の場所はこの紙に詳細を書いておいた」

「すまん、助かる」

「ただ、ブラッドレインの居場所だけは掴めなかった… すまん」


 頭を下げるマスター。


「いや、流石はマスターだ。

 この短期間で、これだけの情報を集める事ができるだけでも十分すぎるよ」


 俺は苦笑して、感謝を述べる。


「そのブラッドレインの情報も、引き続き調べてもらえるか?」


 そう言って、追加の札束をマスターに差し出す。


「分かった。 調べておこう……

 お前さんは今から組織を潰しに行くのか?」


「当然だ」俺は即答すると立ち上がり、店を後にした。


 ◆


 マスターに手渡された詳細の書かれた紙を手がかりに、俺は敵対するミッドレイの本部を訪れた。

 弱小組織の事務所といった佇まいで、入口に見張りが二人立っている以外は特に変わった様子はない。

 俺は特に気にする事なく、正面から見張りに向かって歩いて行く。


「おい。 とまれ、そこのお前」


 俺に気が付いた見張りが、慌てて制止を呼びかける。

 俺は無視して、見張り二人の頭に鉛玉を同時に叩き込んだ。

 その場に崩れ落ちる見張りの男達。

 堂々と正面から事務所の中に足を踏み入れると、中に居た男達を一瞬で撃ち殺す。

 何発かは抵抗を受けたが、まともに撃たせる前に撃ち殺す。

 リロードし、そのまま、怯えている男に、殺気を放ちながら銃口を突きつけて問う。


「ボスのところに案内しろ」


 男は怯えて両手を上げ、怯えながらも頷いた。


 ◆


 豪華な部屋の一室で、一人の男が叫んだ。


「何の音だ!」

「分かりませんボス。 おい。 確認してこい!」


 部下と思わしき男が、慌てて部屋から出ていく。

 少しすると、下から発砲音が鳴り響いた。

 銃撃戦と呼ぶには短い、あっと言う間に銃声は鳴り止み、静寂に包まれる。

 男は部屋の中の部下に目で合図をし、銃を扉に向けて警戒する。

 一人の男が扉へ近づき、外の様子を確認しようと扉をそっと開けた次の瞬間、扉が勢いよく開き、中に飛び込んだ男によって、銃を構えていた部下たちが次々と撃ち殺されていく。

 ボスも反撃しようと引き金を引き絞るも、男の反撃によって手を打ち抜かれ、銃を手放してしまう。

 そこに立っていたのは喪服の男だった。

 全身から殺気を放ち、激しい怒りを目に宿している。

 もう、ボスと呼ばれた男以外、そこには生きている者はいなかった。


「な… 何者だ……」


 ボスと呼ばれた男は、恐る恐る喪服の男に尋ねる。


「お前たちが敵に回した組織の、黒き死神だ…

 お前たちは越えてはいけない一線を越えた。 もちろん覚悟はできているんだろうな?」


 それは恐怖だった。 喪服の男から放たれる激高の殺気に中てられ、恐怖に震える。

 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで両足を打ち抜かれ、その場に膝をつき、痛みと恐怖に顔を歪める。


「ま、待て! 待ってくれ… こ、殺さないでくれ…… 頼む…」


 今度は男の左肩を打ち抜いた。


「――っ!」


 男は苦悶に顔を歪ませ、涙ながらに訴える。


「まっ、待ってくれ!

 今回の襲撃を企てたのは別の人間なんだ。 俺たちはそれに乗ったにすぎない…

 そ、そうだ… て、手紙を預かっている… そいつの情報を全て吐くから、命だけは助けてくれ!」


 そう言うと這いずって机の引き出しから、一枚の手紙を取り出す。


「こ、コレを渡してほしいと頼まれた。

 奴のターゲットは黒き死神。 アンタだ… 奴はアンタと一騎打ちがしたいらしい。 俺たちにそう言っていた」


 手紙を受け取ると、そこに書かれていた内容に目を見張った。


----------------------------------


よう黒き死神。

この手紙を読んでるって事は、俺の思惑通りに餌に釣られたみたいだな。

俺は最強の殺し屋を自負してるんだが、お前の存在がそれを許さなくてな。

本気のお前と戦いたくて、色々と仕組ませてもらった。

どうだ? お前の大切なボスを殺された感想は?

怒りに歪んだお前の顔が思い浮かぶと、愉快でたまらない。


お前に準備期間として数日やる。 その間にしっかりと準備して俺を殺しに来い。

ああ、それから、招待するのはお前だけだ。 ぞろぞろ部下を連れられて来られてたら興醒めだ。 それに、折角の招待を断られても困るから、人質をとらせてもらう事にした。


そういう訳だから、お前のボスの葬儀に顔を出す事にしたんだ。

丁度人質にお誂え向きの女も居るみたいだしな。


三日の十三時、下記の指定した場所にお前一人で来い。

逃げたり、一人で来なかったら人質の命は無いものと思え。

本気のお前と殺り合えるのを楽しみに待ってるぜ、黒き死神。


by blood rain


----------------------------------


 俺は手紙を読み終えると、手紙を握りつぶした。

 怯えている男の顔面を蹴り飛ばし、顔に残弾すべて叩き込む。

 男は銃弾を打ち込まれる度に体を跳ね上げ、絶命する。


「くそがっ!」


 俺は急いで葬儀会場へと引き返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る