第6話 迷宮事件・2
「何か策があるんかい?」
その場の全員を代表するように聞いたゲンの方を上目にちらりとみて、コルンは小さく、しかしはっきりと頷いた。
「魔石ゴーレムを倒すには、圧倒的な威力での攻撃が必要、とされています。けど、それだけじゃない、です」
「なるほど、聞かせてくれ」
コルンの言い様に、彼女の中に在る確信を感じ取ったレールセンが続きを促す。
「はい。ある程度以上の威力が、あるなら、物理と魔法で同時に絶え間なく攻撃することでも、倒せると、文献にはある、です」
「うぅむ、一人では手数に限界があるが、分担して攻撃となると大勢では魔法が味方に当たってしまう。通常はどちらかのみでの包囲攻撃となるな」
コルンの説明を聞いたロックボルトは腕を組んで、顔をしかめる。コルンの言う事が正しいなら衛兵団が得意とする集団戦法では通じないということだからだった。
「です。必要なのは、数による包囲ではなく魔石ゴーレムの防御能力を上回る飽和攻撃。人数は必要じゃない、です」
「そしてそれを成し得るのは正に少数精鋭、我々生活環境隊のことだな!」
止めの様に補足したコルンの言葉に、得意満面で胸を張ったレールセンが結論付ける。
「……。とにかく、実際対処できていない。セッカン、……いや生還隊にそれが出来るなら、頼む」
ロックボルトは腕組みを解くと、渋面のままでしっかりと頭を下げる。
「何を頭など下げている、ロックボルト君。衛兵団内で適材が適所に向かうだけの話だろう? ただ応援要請をくれればそれでいい」
「……ああ。改めて応援要請だ。ダンジョン入り口で暴れている魔石ゴーレムの撃破に加勢してくれ」
当たり前のことだと、力強く言うレールセンに、ロックボルトは頭を上げて向き合うと噛みしめるようにはっきりと告げた。
その応援要請を受けて、レールセンはコルンを、続けてテスラを見ると、右手を振り上げて声を張り上げる。
「ではコルンとテスラの両名は現場へ向かって魔石ゴーレムに対処。ゲンは付近に控えて万が一にも二人が突破された場合にここまで伝令を頼む。以上、生活環境隊……行け!」
「おう!」
「はいよ」
「はぃ、です」
レールセンからの指示に、力強くテスラが、気負いなくゲンが、そして小さな声に強い意志を込めたコルンが応える。すぐにロックボルトに先導されて生活環境隊の面々は動き始めたのだった。
ラルベスカの地下に存在する、深く広大なダンジョン、ラール。街を潤す資源採取場であるそこは今、絶望の深淵たる本来の姿の片りんを見せていた。
制圧用の大盾を構えた衛兵が、黒ずんだ石で形作られた人型に突進し、その隙間から鉄で補強されたこん棒で別の衛兵が殴りかかる。しかし殴られた人型、魔石ゴーレムは意に介した様子もなく腕をなぎ払い、盾の上から殴られた衛兵が一人吹き飛ぶ。
「なんとか抑えてるって感じか」
すぐに吹き飛ばされた衛兵を下げ、別の衛兵が落ちた大盾を拾って空いた場所へと突進するのを、少し離れた場所で見て、テスラは呟く。
「ああ、ダンジョン入り口で何とか抑えているだけという状況だ。相手にダメージを与えられていない以上は、こちらの消耗が激しくなればいつかは突破して街へと侵入される」
着いてすぐに現場を指揮していたダンジョン隊の隊長と話していたロックボルトが、テスラとコルンの元へと戻りながら状況を説明した。
「ゲンさんは?」
「状況を確認したいってさ」
姿の見えないゲンは情報収集のために離れたことをテスラは説明する。そのことは確認しただけであったようで「そうか」と小さく呟いたロックボルトはすぐに切り替えて、強い視線をテスラとコルンへと向ける。
「やれるか?」
「まかせろ、な? コルン」
「っ! ……はぃ、大丈夫、です」
テスラから声をかけられ、反射的にびくついたコルンであったが、状況への責任感が勝ったのか少し俯きがちながらもしっかりと目を合わせて返事をした。
「えと、ウチが魔法で攻撃を始めたら、テスラ君は、とにかく殴って、です」
「わかった、任せろ!」
テスラは支給されたばかりの特注制圧装備、金属補強された手袋を打ち合わせて応える。
「それじゃあ、今囲ってる連中を下げるぞ」
ロックボルトはテスラとコルンの準備が整ったのを確認すると、すっと手を上にあげて振り回した。すると年嵩の衛兵が声を張り上げて号令を出し、それを受けて波が引くように魔石ゴーレムを取り囲む衛兵たちが下がり始める。
「始める、です!」
珍しくもやや強い口調で言ったコルンが両手を前にかざして、意識を集中する。すぐにコルンの魔力を受けて、拳大の火球がいくつも出現し、一瞬コルンの前方にとどまった後でそれぞれが弧を描く軌道で射出された。それらは歩みを再開していた魔石ゴーレムへと殺到していく。
「すげぇっ! オレもいくぞっ!」
一人で大量の魔法を発現させ、それらを離れた場所から全弾命中させるコルンの腕前に、少し離れて半円状に取り囲むように見ていた衛兵たちからも、感嘆と驚きのどよめきがあがる。そんなどよめきを切り裂くように、張りのある気合いの声をあげたテスラは、声に負けない勢いでもって駆け出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます