第3話 厄介部隊
渋い顔の衛兵を残して、テスラが連れてこられたのは衛兵詰め所の端の方にある一室であった。
「ラルベスカは広い。だから衛兵詰め所も各所にあって見回りを担当する巡回隊と、捕縛を担当する制圧隊はそれぞれに分散して配置されている。あとはダンジョン関連をまとめて担当するダンジョン隊、事件捜査を担当する捜査隊、内務全般を担当する庶務隊はそれぞれが拠点とする詰め所に配置されている」
歩いてくる間にレールセンから説明されたのはその様な内容であった。テスラの故郷は田舎だったので衛兵は衛兵であって隊分けなどなかった、とテスラは記憶している。そもそも衛兵“団”ではなく衛兵“隊”であった。
憶えることを諦めたテスラが聞き流しながら付いて歩いていると到着したのが、その建物端にある一室の扉前であり、レールセンはそこで振り返ると、大仰な手ぶりで扉を指し示した。
「そしてここが、我々生活環境隊の拠点となる部屋だ」
「えっと……、倉庫?」
思わずこぼしたテスラの言葉は、見た目で言った訳ではなかった。というのも扉上に貼り付けてある部屋名の表札には、はっきりと「第三倉庫室」と書いてあった。
「うむ、“元”第三倉庫室、だな。今は我々が占拠、もとい使わせてもらっている」
テスラは取調室での初対面時に、レールセンが生活環境隊のことを厄介者の集積場だとか言っていたことを思い出していた。そして、なるほどこういう事か、というのがテスラの率直な感想だった。
「今は二人ほど出ているが、残りの二人は在室のはずだ。紹介するから入ってくれ」
言いながら扉を開いたレールセンに促されて、テスラは室内へと入っていった。
室内には奥に一つ、手前に二つの机とイスが並び、残りの空間には丸イスがいくつか置かれていた。壁の片側は棚が埋めており、書類や本が綺麗に並べて収められている。
倉庫じゃなくて普通の事務所だ、というのが中を見た後のテスラの感想だった。そしてきょろきょろと室内を見回すテスラの視界には手前にある机の席につく、二人の人物が映っていた。
「お? 隊長さん、そのボウズが迎えに行った新人かい?」
火のついていない煙草を咥えた初老の男性が、妙にくたびれた衛兵の制服に身を包んでテスラとレールセンを交互に見ている。
「……っ」
もう一人はおそらく少女、あるいは女性で、こちらはパリッとした制服を着ている。ただしやけに長い前髪が顔の半分近くを覆っており、体型も小柄で起伏に乏しいために確証は持てなかった。
ちなみに内勤衛兵の制服は襟付きのシャツにズボンで統一されており男女差はなく、見回りや捕縛などの外勤衛兵はその上に皮製の部分装甲をつける。ダンジョン隊だけは例外で、制服の上には冒険者のようにそれぞれが独自の装備を身に着けることが許されている。
「あー、えぇっと、オレはテスラだ……、です。今日から生活環境隊?に入りました」
「この隊内だと敬語なんぞ使わんでええぞ。あと隊名は長いから生還隊と呼んどる。そこの隊長さんは律義に略さず言うとるがな」
微妙に癖のある口調の男であったが、敬語はいらないという態度はテスラにとっては好ましくやりやすいものであった。
「それで、俺がゲン。で、そっちの嬢ちゃんがコルンだ」
「……よろしく、です」
「おう、よろしくな」
初老の男、ゲンがもう一人のことを嬢ちゃんと呼んだことで、テスラはおそらくではなく女であったことを知った。机の天板を見つめたまま発された挨拶の言葉もか細く聞き取りにくかったが、確かに高く可愛らしい声音をしていた。
そして、この時点ですでに横柄な態度で挨拶を返したテスラであったが、ゲンもレールセンもそのことを気にした様子はなく、いつも大人たちからは疎まれてきたテスラは早くも居心地の良さを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます