幻想世界の職業斡旋士
ネコモドキ
プロローグ 王立ギルドのリクルーター
鉄錆の匂いが、血風に運ばれ目に沁みた。
誰とも知れぬ乾いた血脂が手を茶に染める。
血褐色が固着した空は、視界に映る半分が裂け、荒野と化した乾地には、円形状の穴跡が幾つも穿たれている。
最早その足で、確かに立っているのはーー、三人。
誰もが満身創痍ながらも、その両腕に背負うは鈍重たる宙よりも遥かに重いもの。
一人は、好いた
遥か異国の地にて奇跡とも呼べる再会を皮切りに、凍結した感情と時間とが溢れ出す。その衝動とも言うべき青い信念に突き動かされ、ここまで、来た。
一人は、好いた
その出会いはきっと、運命と言う言葉が当て嵌まる。ただそれは、数奇的で、喜劇的で、遥か遠い異国の旅人に蕩けた時間はほんの僅かで。自身の手癖の悪さと、只私情とを言いに、来た。
一人は、自分の為。
ひいてはそれが、
夢をーー見た。
争いの、災いの、諍いの、誘いの、戦いの、闘いの、遠く、懐かしい、夢を。
纏う黒衣を血に染めて、鈍い銀光が目を焦がすも、翠色に侵食された瞳は、爛々とその切っ先を睨みつける。
黒衣の、闇の主人が口を開く、
☆
「汚物は消毒ダアァーーッ!!」
がっしゃーん。
意識を強制的に浮上させる騒音と共に、麻袋を担いだ半裸の肉ダルマ群が侵入してきました。いや、ご入来なされました。
硬そうな筋肉に覆われた上腕二頭筋に包まれた麻袋は、何やらガサゴソと芋虫の如き動きを見せます。
「アオさん、
「いやあの、ここ中継救護施設じゃないんですが」
「ゑ、」
「えじゃねーです、ここ、間違っても国営のギルド内ですよ。そんな不潔なものを、そのど真ん中に置かないで下さい。後硝子弁償して下さい」
「アオさん以外と辛辣だよな」
「貴方方に職業を斡旋したのは間違いではなかったのかとつい先程も苦情を頂きました。ですが、そのご家族の方からはええ、好評でしたーー泣きそうです」
「世情なんて無視しちまえよ!」
「それが出来ねーのが仕事なんですよ畜生」
肉ダルマ群の首魁、もといリーダー格のブルック・オーナーさんが快活な笑い声を上げます。音を立て地面に転がされた麻袋からはくぐもった声が。
ああ、今日も今日とて魔物の
「ああそれで、依頼にあった中傷者3名、無事に保護して来たぜ!勿論消毒済みだ、ガーゼとかは経費で落としてくれ」
「まあ、人助けにお金を惜しまずですからね、硝子代として徴収しておきます。ーーそれで、何故麻袋に?」
麻袋の口が緩められ、大きく空気を吐く苦しげな声と共に、若い男女が顔を覗かせます。
額や目元に細かな裂傷こそあれ、既に止血はされてあるようで、報告にあった骨折箇所にもギブスらしき膨らみがあります。
ーーしかし、何故人売りスタイルなのでしょうか。
「怖がるからに決まってんだろ!」
「指へし折るぞ」
目を細め、髭の隙間から覗く白い歯を見せるブルックさんについドス黒い声が漏れてしまいます。
彼等は、まあ外見だけ見ると完全に裏社会の人間ですが、その職業は衛生管理士ーー
とは言え、本来の業務内容といえば、救護施設にてナース的な接客業務も兼任していたのですが、以前クレームが入りまして……「彼が救護施設の女性とチョメチョメな関係になった……」と言う、吊り橋効果の応用みたいなやつです。
そこで自分が、無駄にそう言った技術に長けた
流石に、王国では殆どありませんが、大陸の最南端ーー未開地ですといたずらに体力を消耗させるような瀉血療法が民間では当たり前とされるような世界ですからね。そう言った物事を多く経験され、尚且つチョメチョメ展開にならない方と言うのはまあ、ビジュアル的にそうなってしまう訳で…………
お陰様で、衛生管理(物理)士と揶揄されたり、治療された方からはクレームの嵐、そのご家族や配偶者の方からは絶賛の嵐。もうね、やってらんねーですよ、ええ。
ーーああ、自己紹介が遅れましたね。自分、国営ギルド中央カウンター横職業斡旋所職員兼所長、
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