「皆さん 今日の慰霊祭に 行かれるんですか?

 あ、私 この近くに住んでいる増永菜摘と言います」


 はきはきとした子だ。


 栄子さんが 答える。

「そうよ。私は 今 大阪に住んでるの。光村栄子です。

 そして 結城友美さんと 億川幸弘君、二人は 彦根から 来てる。

 見ての通り ラブラブ状態よ。あ、 億川君は オックンって ペンネームで ノートに書いてるよ」



「えっ!オックンって あの有名な?」


 有名? この僕が?


「私 よく ここに来たり壬生寺に行ったりするけど オックンさんの名前は あちらこちらの ノートで見かけますよ。

 こんな有名な人と 出会えるなんて 嬉しい。次からは オックンさんのノートにも 書かせてもらいます」



 こうして 僕にはまた 新しい仲間が増えた。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


 慰霊祭は まず新選組局中法度の唱和から始まった。

続いて主旨説明。

更に読経の続くなか参列者による焼香が 行われ、第一部が終了。



 第二部に移る前に新選組パレードの出発式が行われる。



 揃いの 隊服羽織に身を包んだ新選組のメンバーが隊列を組み 誠の旗を先頭に池田屋跡まで 行進するのだ。



 その姿は 子どものころ見ていた 時代劇『新選組』そのものだ。



 パレードは 京都三大祭りの一つ、時代祭に 新選組が登場しないことから、自分たちでと 有志によって始められた。



 パレードの出発後 壬生寺会館に会場を移し 第二部が 開かれる。



 参列者の一部は パレードとともに 池田屋へ向かったため 人数は減るが それでも会館のなかは 熱気であふれ返っている。



 まずは 住職のあいさつ。


 続いて 皇宮警察京都護衛所のメンバーによる 剣道の奉納試合。

 皇宮警察が参加しているのは 新選組が御所の周りをパトロールしていたことによる。



 更に 詩吟の奉納。


 合いの奉納と続き、ビデオ上映会で すべての日程を 終了する。



 慰霊祭が終わると、毎年 仲良くなった参列者と近くの喫茶店でおしゃべりを楽しむ。


 もちろん この日は増永菜摘も一緒だ。



 そこで菜摘が こんなことを言い出した。


「私、妹が一人いるんですけど、お兄ちゃんってものに 憧れているんです。

 オックンさん、私のお兄ちゃんになってもらえませんか?」



 どうしようかと 友美を見ると、目がいたずらっぽく笑いながら うなずいている。


 僕と 菜摘の 擬似兄妹という 不思議な関係がこの時始まった。




 そんな僕には もう一人 気になる人がいる。

 いや 最初はそれほどでもなかったのだが時間がたつに連れ それは 大きくなってくる。


 光縁寺ノートに 死を望む書き込みをしていた エトセトラという女の子だ。

 正確には まだ会ったことがないので 本当に女の子かどうか。それすらわからない 謎の人。



 そんな彼女から 連絡があったのは 季節が秋から冬にむかう頃だった。



 僕には今 毎日のように 新選組ファンの仲間から 郵便物が届く。

 ノートやイベントを通じて知り合った人たちだ。


 中には ノートに書いてある僕の住所を見て 見知らぬ人からの手紙もある。



 そんな手紙の中に エトセトラからの手紙があった。


 その手紙は ごく普通の封筒に入った、どこにでもあるような 便箋に ちっちゃな癖のある文字で 書かれていた。

 そして 慰霊祭の日に光縁寺ノートに記した

『エトセトラさん 連絡ください』のメッセージに 答えるものだった。


 消印は 京都市内。


『光縁寺ノートに書いてあったメッセージを見て お便りしています。

 生きるのがつらい 女の子です。大阪のどこかに住んでいます。

 生きるのが つらくて たまらなくなった時は 学校サボってまでも 壬生に行きます。

 生きたくても生きられず 死んでいった、沖田(総司)さんに 叱られに行くのです。


 オックンさんのことは よく知ってますよ。色々な ノートにかかれていますし イベントでも お見かけしたことが あります。


 また連絡しますね。

 私への メッセージは オックンさんのノート 勿忘草にお願いします。

エトセトラ』



 封筒や便箋には 住所は記されていない。


 消印は京都市内。

 彼女が 京都に行ったときに 投函したのだろうか。




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