こっちを見て
青山えむ
第1話 こっちを見て
直樹、こっちを見て。
ずっとそう思っている。
直樹は私の方なぞ全然見ない。
知らない女と妙に仲良くしている。あの隣にいる女は誰だろう。
「直樹の隣にいる子は誰?」私は、ただの好奇心という風を装って聞く。
「うーん、友達……?」と翔は濁していた。濁す事が尚更怪しい。
今日はライブハウスに来ている。好きなバンドが出ている。
バンドが好きなんだけれど……気づいたら、メンバーに恋をしていた。
私が好きなバンドは、ヨルゾラという。
ライブハウスからの帰り道の夜空が好きという理由らしい。
四人組のバンドで、私が片想いしているメンバーが直樹だ。
翔もヨルゾラのメンバーだ。翔はヨルゾラの中で一番話しやすい。
私は、こっそりキーボードの練習をしている。いつか一緒に出来る日があるかな、という微かな希望を抱いて。
直樹は私に冷たい気がする。クールと云えば聞こえが良いけれど。
直樹が一人になったタイミングで話しかけてみる。
直樹と話したい、直樹に触れたい。
「直樹、お疲れ様。この間のGWは、直樹も十連休だったの?」私は笑顔で話しかけた。
「ああ、まぁ」直樹の返事はこの一言。
ほら、私が話しかけてもそっけない。けれども無視された訳ではない、私は続けて話題を投入する。
ペラペラ喋る私の話を、一応は聞いてくれているのだろう。直樹はトークの途中で席を外す事はない。
そこへ翔が来た。翔が加わると、直樹も和気あいあいとした空気になる。
三人で、和気あいあいとし始めた。
先日、直樹と翔が合コンに行った時の話になった。
合コンで、いかにも誘ってます、のしつこい女がいたそうだ。
そこで翔は「ワンナイトでいいなら、ついて行くよ?」と云ったそう。
そしたら女は「いいよ! それでも」と笑顔だったそうだ。翔はうんざりして、先に帰ったそうだ。
「
「翔の中で、亜衣さんは他の女と違うんだよ」直樹は続けて云った。
三十歳にもなって一人でライブハウスに来てぎゃーぎゃーはしゃいでいるからだろうか。
直樹と翔は、私より二つ位年下だった気がする。
直樹は病院に勤めている。検査技師とかなんとか云ってたな。
翔は県内でもトップ企業のエリート商社マンだ。二人とも合コンなど、お誘いはしょっちゅう来るらしい。
「高給狙いの女の目は皆同じだよ」直樹が云ったのか、翔が云ったのか解らない。
〇
ライブハウスから帰宅した夜は記憶の反芻をする。
ヨルゾラのライブの風景。直樹と話した事。直樹の佇まい。直樹が誰と話していたか。
反芻していたら、翔からメールが届いた。
―今日は来てくれてありがとう!―
翔はライブに行く度、こういうメールをまめにくれる。営業担当なのかな。
今日は早く帰ったので、SNSもじっくり見る時間がある。
最近、直樹のSNSを見つけたので、こっそり読んでいる。
タイムラインをずっと遡ってゆく。私と直樹の共通点を見つけて喜ぶ。
共通点といっても、最近私がSNSで使った単語と同じ単語を、直樹が使っていた。それだけで高ぶる。
もしかして直樹も私のSNSを、こっそり見ているのかしら。そんな思い込みなんかもしてみる。
直樹って、彼女いるのかな。
ヨルゾラは結構前から好きなバンドだけれど、直樹は最近加入したメンバーだ。
だから彼の情報はほとんど知らない。
直樹のインスタを辿ってみた。でもSNSだけじゃ解らない。
女の子が映っているだけで、勝手にドキドキハラハラしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます