無重力マニア

しゃけ

第1話

 来た! 来た! 来た!

 二百年もの間旧態依然としていたプロレスにもついに新しい時代が来た!

 まずリングがデカい!

 通常六メートル四方の所、十二メートル四方!

 二倍だぞ! 二倍!

 コーナーに置いてあるポール、所謂コーナーポストに至っちゃ通常一二〇センチ程度の所、軽く六メートル以上はある! 五倍だぞ五倍!

 そんでもってリング上で闘っているあの二人!

 太くてゴツいのと、高いけど細いの!

 この二人はまぶっちゃけ普通の青年だ。

 なんか特別な力を持って産まれてきたわけじゃない。

 だが見て欲しい! あの動きを!

 細いのが両足でマットを蹴るや! 蹴るやいなや!

 フワっと浮きあがるように、軽く四メートルは飛びあがった!

 そして急降下! ライダーキックのようにリング中央の太いのを襲う!

 アゴにクリーンヒット! 二メートルばかり浮き上がり、ロープに叩きつけられた!

 追撃に向かう細いの!

 しかし太いのもさるもの!

 ロープの反動をうまく使い、迫りくる細いのに頭から突進!

 細いののドテっぱらにヒット! 今度は細いのが吹き飛んだ!

 両者ダウン!

 観客席からは悲鳴! 歓声! どよめき!

 両者、足で反動をつけて同時に立ち上がったァ!

 猛牛のスピードでリング中央に向かって突進する!

 まるで相撲の立ち合いだ! このぶつかり合いは太いのが有利か⁉

 あっ! ところがどっこい! 衝突の直前!

 細いのが右腕を下から上に振り子みたいにブン回す!

 いわゆるアッパーカットだ! ガチーンとアゴにヒット!

 プロレスじゃあパンチは反則だがまあいいか!

 太いの! 三メートルがとこ浮き上がり、リングに叩きつけられた!

 太いのファンの叫び! 悲鳴!

 うつ伏せにマットに倒れる太いの!

 サァ! 細いのは絶好のチャンスだ! なにをしかけるか!

 おっ! 細いの! 太いののぶっとい腰に後ろから両手を回した!

 太いのを引っこ抜くようにしてムリヤリ立ち上がらせた! そして! ジャンプ!

 大ジャンプ!

 太いのを持ったままのスーパージャンプ!

 グングンと上昇するぞ! どこまで行ってしまうんだ⁉

 高度五メートル。一瞬空中で停止。

 そして急降下!

 太いのの脳天がマットに叩きつけられる!

 細いのの必殺技が炸裂! 場内大爆発!

 細いの! 太いのに覆いかぶさった!

 レフェリーがマットを叩く! カウントが数えられる!

 ワン! ツー! スリー!

 入った! スリーカウント!

 ゴングが打ち鳴らされる!

 レフェリーのちんちくりん女が細いのの右腕を上げた!


 プロレスを初めて見たオトナはみな一様に首を捻る。これは一体なんなんだと。

 たぶん格闘技やスポーツではない。

 じゃあショウ、またはエンターテインメント或いは八百長なのか?

 いやそう言われても違和感がある。

 ホントになんなのだろう?

 まあともかく――。

 完全にクセになっちゃってもう人生の欠かせないパーツの一つになっちゃってる。

 そんな奴がいっぱいいる。これだけはゆるぎない事実である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る