「人の恋路を邪魔する奴は」

「スズラン、わかるか?

 こやつはどうやら儂らの世界とは違う、

 別の世界から来た生物のようじゃ。」


クソ爺は相手の思考を魔力で探りながら

楽しそうに笑みを漏らす。


「ふんふん、どうやら奴さんは

 ドラゴンのエネルギーを喰いにきたようじゃな。

 しかし大部分の玉が無くエネルギーも少ないことから、

 防人を殺して情報を得、この街にきたようじゃな。

 人の脳みそを食ったことで人間の脳波も操れるようになり、

 このような事態になったと、ふんふん。」


そう言うなり、

クソ爺は後ろを振り向き、

姫様に言った。


「ということなのじゃが、どうかね姫様。

 そのドラゴンの総力とやらを

 こやつに味あわせてはみんかね?

 姫様なら、ドラゴンを管理することで

 操作もできるはずじゃが。」


だが、それに姫様は当然のように戸惑う。


「え、ですが、

 今手元にはドラゴンはいませんよ。

 気配はある気がしますが。」


するとクソ爺は足元の先ほど

化け物から取り上げたカバンを指差した。


「そこ、開けてみい。」


姫様は言うとおりにし、息を飲む。


そこには見事に6つ揃った

ドラゴンの入った玉があった。


「玉は自然界に戻った後、長い年月をかけて元の玉に戻る。

 そうしてさらに長い年月をかけてまた多重世界ユグドラシルの

 黄のドラゴンの元へと集められる。今がその時期じゃったのだ。」


クソ爺がそうひとりごちる中、

それを見ていた小林さんが息を飲む音が聞こえた。


「…あ、それは私の家にある竜神様の宝玉で、

 でも、ある人にそれは大事なものだって言われて、

 それで、えっと…。」


パタパタと汗を垂らしながら、

必死に何かを思い出そうとする小林さんに、

今しがた気を失っていたアーサー王子が

寝ぼけながらも彼女に近づくと眼鏡を外し、

こう尋ねた。


「もしかして、ともこ?友子ともこなのか?」


眼鏡を外した女性はとても綺麗な顔立ちをしていて、

聡明そうな横顔はどこかの誰かを彷彿とさせた。


そして、名前を呼ばれた彼女の目に光が宿ると、

すぐさまアーサーの胸をポカポカと叩き出した。


「アキラぁ。何よ、急に何なのよ。

 急に今までの関係を解消しようって、

 君はこれを持って逃げてくれって、

 何なのよ。何で一緒に連れてってくれないの!」


ボロボロと涙を流す女性と

それを抱きしめる男性。


「ごめん。危険が迫っているのがわかっていて、

 でも、君だけでも助けたくて、それで嘘をついたんだ。

 ごめん…本当にごめん。」


端から見れば感動的な光景なのだが、

正直ことはまだ終わっておらず、

海の向こうの怪物も人間の感情を取り込んだせいか

心なしかこの場面に入るのが申し訳ないと

感じているらしくウゴウゴしている。


そこにふらりとやってきたのは

カバンを持った姫様。


揃った宝玉は黄色を除いた6つだが、

彼女自身が黄色の宝玉を体内に宿しているため、

実質的には7つ全てが揃っていることになる。


「…確か、エネルギーが欲しいとおっしゃっていましたね。

 でしたら、ほんの少しだけですけれどおすそ分けいたします。

 お腹いっぱいになったら言ってくださいね。」


そう言うなり姫様はすっと紫の玉を取り出し、

途端に、ドラゴン7体総合の強力なビームを照射する。


化け物は一瞬だけそれに照らされるが、

エネルギーMAXの攻撃を喰らったせいで、

欠片も残さず海上から消しとんだ。


「…あら、おかわりも必要ありませんでしたね。

 これに懲りて、二度と出てこないでくださいね。」


そうして、姫様はカバンのチャックを閉じ、

しずしずと私たちのほうへと戻ってきて微笑んだ。


「よかったです。浮気じゃなくて。」


そのあまりにも恐ろしい光景に、

私とクソ爺は顔を見合わせると、

「ああ、この人怒らせちゃあいけないんだな。」

と改めて感じずにはいられなかった。

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