「屈辱の見破り」
緑のドラゴンが別名「同化のドラゴン」と
呼ばれている意味はわかった。
階段や周囲の物質と一体化する人々。
過去や気持ちまで同化してしまう
多重世界の人間との魂同士の交わり。
ドラゴンの力は恐ろしい。
だが、恐ろしい以上にまずい事態。
なぜなら…
「なんで、俺、
魔法少女スタッドレスが好きなだけの貧乏フリーターなのに。
ひっきりなしに親父に殴られて、母親と一緒に地方に逃げて、
今も狭いアパートで苦しい毎日を暮らしてる人間なのに、
なんで、俺の過去が多重世界を守る可愛らしいお姫様で、
使命のためにここにきているって考えているんだ?」
姫様の入った青年が真っ青な顔で混乱している。
…そう、ユグドラシルという多重世界。
その構造自体を一般人に知られることは
基本的に禁忌とされている。
それを知ることで時空に歪みができるとか、
超弩級の彗星やUFOが降ってくるとか、
大量発生した鮭の大群が陸上に押し寄せてくるとか、
まことしやかな噂はあれど、本当のところはわからない。
わからないなれど、
この状況に悪影響を与えることは確かだ。
私は自身の世界の姿である
なんだか裕福なお坊っちゃまの、
なんの問題もない過去に振り回されつつ頭を回し、
この状況を打破する術を考える。
「…くそ、落ち着け。落ち着け、俺。
この状況から何かおかしな状況を探るんだ。
一見何気ないものでも、どこか違和感があるはずだ。」
そうだ、私の姿である青年の言う通り。
ドラゴンは魔力ごと同化していようとも、
どこかにズレがあるはず。
そこを見つけて捕捉すれば…
と、ここまで考えたところで私は気づく。
…もしかして、この青年は
同化しながらも私に協力しようとしてくれている?
すると、青年は薄く化粧をしてもわかる
整った顔立ちを悔しそうに歪ませながら、
キッと前を見据える。
「くそ、なんで俺の中にある
この過去はこんなにも歪んだものなんだ。
これは、俺の怠惰な心によるものなのか?」
…は?
私は一瞬青年が何を言っているのか
わからなくなる。
「く…なんてひどいんだ。
優れた祖父のおかげで家の名前が上がったのをいいことに、
食っちゃ寝、食っちゃ寝が許される怠惰な生活。
しかも、重量級の体を使って自分より小さな人間をいじめている。
なんてあくどい、最悪な過去なんだ…!」
おい、待て。
それって、もしかして私の…
「なんて醜く、浅ましい姿。
俺は、少女アニメにはまっている場合じゃなかった!
もっと人の役に立つことに。
…世界のために動くべきじゃなかったのか。
多少魔法が使えるぐらいで、ましてや大食い勝負に勝つことで
満足を覚えるような人間になってはいけないじゃないか!」
…信じたくないが、認めざるをえない。
こいつは私の過去と現在の姿を見て、
後悔し、反省しているのだ。酷いことに。
「く、こんな過去は俺の過去ではないに決まっている。
だが、こんな過去が見える以上、
俺にも何かしらの問題があるに決まっている。
…そうだ、問題の原因であるドラゴン。
そのドラゴンはこの会場にいる。
しかも、我々を見ている位置にいるはずだ。
例えば…例えば、頭上とか…。」
クッソ、何でこいつ私のことをバカにするくせに
こんなに頭と勘がいいんだよ。
私は青年の言葉通りとっさに顔を上げ、
頭上に沸いた雲…
この会場の人々の
熱気によってできた雲を見上げた。
…そう、いくら寒いとはいえ、
屋外であるこの場所に雲が出来ること自体おかしい。
人々を頭上から見下ろせる位置。
熱気による蒸気への擬態。
それがドラゴンに認識される直前、
私はとっさにありったけの魔力を
ドラゴンの変化した雲へとぶつけ…
その瞬間、雲は周囲へと四散し、
私は、ドラゴンを封印することに成功した。
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