たけちゃんの秘密

とある日の出来事だった。

武は、相変わらず、たこ焼きを焼いていた。

「今日もいい天気やなあ。」

呟いてみるが、客は相変わらず来ない。祭りの時期にしか来ない。

「眠たなってきたなあ。」

武は軽く、あくびをした。その時だった。

「武。」

やや低めの男性の声がした。

「元気か? 武。」

武が見上げると、そこには、身なりのきちんとした、1人の男性が立っていた。

「あ、あんちゃん!」

武は叫んだ。そう、この男性は、武の兄だったのだ。

「あんちゃん、武流あんちゃんやないか!」

「久しぶりやな、武。」

二人は、がしっと抱き合った。久々の再会だった。


「あんちゃんが会いに来てくれるなんて、思っとらんかった。」

「今日な、休暇をもらったんや。」

二人は屋台の前のベンチに腰掛けた。

「あんちゃん、叔父貴とは、うまくいってるんか。」

「まあな。なんとかやっとるよ。」

武は苦々しそうに、こう言った。

「あんちゃん、あんなたぬき親父になんか、負けるんやないで。」

「おうよ。」

武流も笑顔で返した。


その時、偶然、圭二は神社通りを歩いていた。さとるの家庭教師を終えて、武でもからかいに行こうと思っていた。

そして、圭二は見てしまった。武と武流が、楽しそうに会話しているところを。

「あ、あれは・・?」

見覚えのある顔だ、と圭二は思った。そして、思い出した。


間宮コンツェルンの御曹司、間宮武流!!


確か、新堂財閥と間宮コンツェルンは、ライバル関係にあるはずだった。

「でも、なんであんな所にいるんだ?」

圭二は首をひねった。盗み聞きするつもりはなかったが、会話を聞いてしまった。

「武、お前、家に戻ってくる気はないんか。」

「あんな暮らしは、オレの性に合っとらん。それに今は、出てきてよかったと思ってる。」

「せめて、父さんや、母さんが生きていればよかったな。」

武流は遠い目をして言った。

「あんちゃん、嫌ならさっさと出て来ちゃえよ。オレが面倒見てやるで。」

「ありがとな。でも、俺が跡取りだから、しっかりしなくちゃな。」


そこで圭二は気が付いてしまった。武が、武流の弟だという事に。

「そういう事か・・。」

圭二は、武のおぼっちゃま姿を想像すると、ぞっとした。

圭二は考えた。武の身辺について、もっと考えた方がいいのかどうか。

その時、圭二を追って、さとるがやってきた。

「あれ、けいちゃん、こんなところで散歩?」

「そう言う、さとくんこそどうした?」

「あ、たこ焼きを食べに行こうと思ってさ。」


屋台の方から、おーい、という声がした。

「あれっ?」

「あの声は。」

二人は顔を見合わせた。

武が二人を見つけて、こちらにやって来た。上機嫌そうな顔をしている。

いつの間にか、武流の姿はなかった。

「おーい、おまえら。メシ食って行かんか。おれのおごりやでー。」

「おごりだってさ、よかったな。さとくん。」

「うん、行こう。」

「早く来いよー。」

武が呼んでいる。圭二は考えるのをやめた。これも何かの縁かも知れない。


いまはただ、三人で仲間としてやっていきたい、と圭二は固く心に決めた。





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