たこ焼き屋のあんちゃん

旦那様と奥様が去って行ったあと、執事長の北条さんと執事の藤原さんは話し合っていた。

「瑠璃様、お可哀そうに。」

「ああ、そうだな。」

その時、瑠璃がトコトコと走ってきて、こう言った。

「あたし、冒険に行ってくるね。」

「ええええー!」

執事達は声を揃えて驚いた。

旦那様と奥様がいた時には、一言も言わなかった言葉だった。

振り返ると、もう瑠璃の姿はなかった。

「驚いている場合ではない、対策を練らないと。」

「そうだな。」

執事達は頷いた。


その頃。

瑠璃の屋敷からほんのちょっと行った所。

神社通りの蒸し暑い屋台に、1人の少年が暇そうに立っていた。

そこでは、たこ焼きを売っている。

瑠璃はおいしそうなにおいに釣られて、トコトコと屋台に走っていった。

「まいったなー。客がちっともこーへんわ。」

「タコ焼きくださーい!」

少年は驚いたように、瑠璃を見つめた。

「なんや、また小さいお客さんやなー。よっしゃ、まかせとき!」

この少年、三河武といって、たこ焼き屋でバイトしている16歳の少年である。

気さくな性格なので、損得勘定一切考えない。

「お兄ちゃん、名前は?」

「たけし。たけちゃんでええわ。」

そう言うと、たけちゃんは、焼き立てのたこ焼きを山盛り持ってきた。

「嬢ちゃんの名前は?」

「あたしは瑠璃っていうの。るーちゃんでいいよ。」

「瑠璃かー。ええ名前やないか。さあ食え、遠慮せずに食え。」


たけちゃんが勧めたたこ焼きは、あつあつで香ばしそうな香りがする。

瑠璃は、パンとスープしか食べてないことに気づき、思わず手を出した。

「どうや、うまいか?」

「うん、うまい!」

あっという間に、三皿、たいらげてしまった。

「遠慮せずにもっと食え、るーちゃん。」

「はー、おいしかった。たけちゃんありがとう。」

この小さい少女が、お金なんて持っているはずはないのに、たけちゃんは気にしない。

「よーし、元気が出たー! 冒険に行くぞー。」

「おいおい、迷子になるんやないで。」

たけちゃんは、笑いながら残りのたこ焼きをプラスチックの容器に詰めて、瑠璃に手渡した。

「よっしゃ、これは昼めしや。もってき。」

「わーい、たけちゃんありがとう。」

「変な人についていったらあかんで、気をつけてな。」

「うん、気をつける。」

瑠璃はたけちゃんに手を振った。

「またきいやー。」

たけちゃんも笑顔で手を振った。

その光景を隠れて一部始終見ていた執事達は、あることを思いついたのだった・・。









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