心の甘え

俺は彼女、朝日 ヒロミ(女)の手を取ると、その場から彼女を強引に連れ出し、足早に体育館の方に向かった。

最初彼女は俺の強引な振る舞いに、少し躊躇していたが、俺の横顔を見るなり、まるで俺についてくるかの様に手を引く力が軽くなった。




◇◇◇





『朝日 ヒロミ(男)、彼、どうしたの?あの横顔、まるで泣いているみたいに見える』



私は彼の強引な行動に、初めは『えっ?まさか彼から』と思っていたけど、余りにも強引に私の手を引っ張り連れて行こうとするので、私は少し不安になり、体が勝手に彼から逃げようとした。


けど‥‥‥


あの彼の横顔を見たら、なぜだか分からないけど彼が心配になり、彼についていこうと思った。あの横顔が悲しい表情をした彼に。


朝日 ヒロミに。




◇◇◇




俺は体育館裏に彼女を連れて来て、周りに人がいない事がわかると、俺は彼女に一言先に謝った。



「ゴメン‥‥‥強引にここまで連れてきてしまって。けど‥‥‥誰に話せばいいかわからない。わからないんだ‥‥‥」



俺は彼女の前で、頭を下げて謝った。だが、俺のこの時の頭が混乱していた。心の方も。

けど、彼女を一瞬見た時、体が勝手に動き、彼女に話していた。

彼女は最初、俺が何を言っているのかわからなく、戸惑っていたが、俺が悲痛なおもいで話しをしたので、彼女は俺の顔を見て、



「いったい何があったの?」



優しく、柔らかい様な言葉で聞いてきた。

その言葉を聞いて、俺は今の気持ちを彼女に正直に言った。

今の俺に起きている現状の事も。



「俺は君に会いたかった。気持ちを伝えたかった。あの日からずっと‥‥‥」



ただ、俺は悲しい様な感じで彼女に話した為、彼女はまた俺を見て




「あの日から‥‥‥私もあなたに会いたかった。貴方に私の気持ちを伝えたかった。けど、何故貴方はそんな悲しい顔をしながら話すの?」



まるで、彼女の声は今の俺を優しく包み込んでくれる様な感じがした。

そして俺はいつのまにか涙を流していた。それを見た彼女は驚き、



「ど、どうしたの?ねえ、どうしたの?」


「あ‥‥‥うっ‥‥‥ううっ‥俺はあの日からずっと、ずっと君に会いたかった。会いたかったんだ‥‥‥けど‥あいつがいなくなっちまった」


「えっ?どういう事?」


「俺の親友が消えちまった。この世界から」


「えっ?消えた?どうして?」


「わからない‥‥‥なんでこんな事になったのか‥‥‥」



俺は初めて女性の前で涙を流した。


本当は彼女にまた会えて、話が出来て嬉しいはずなのに‥‥‥

どうして心がこんなにも痛いのか、どうして彼女を前にして涙を流すんだ。

嬉し涙ではなく、悲しい涙を。

俺は彼女に話すと、自分がどうしたいかわからなくなり、その場に座り込んでしまった。



「ねえ‥‥‥何故貴方は私をここに連れてきたの?」


「‥‥‥何故連れてきた‥‥‥」


俺は彼女の言葉にフッと思った。

何故、彼女を連れてきたんだ。悲しいから、嬉しいから、話がしたいから、聞いて欲しいから、彼女を連れてきたのか?俺は‥‥‥。



「私、今の貴方の気持ちはわからないわ‥‥‥けど‥」


「けど‥?」


「けど‥貴方の心の痛みはわかるの。だって貴方は私自身なんだもの。何かわからないけど、心に何か伝わってくるものを感じるんだもの」



俺はこの彼女の言葉で、気づいた。

俺はただ単に彼女に甘えたかっただけではないかと。

だから、彼女に会って聞いてもらいたかったんではないかと。










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