セラミックガール~たかが世界の終わり、されど世界の終わり~

猫柳蝉丸

本編

 バスに揺られる。

 バスに揺られ揺られ、知らない町に向かっている。

 こんな時勢に何をしているんだろうと自分自身の行動に溜息を吐いてしまう。

 何故かは知らないが何らかの原因で世界が終わるまで残り三日。

 知らない町になんて向かっていられる時間の余裕なんてあるはずもない。

 それなのに俺が知らない町に向かっているのは、バスの中でも澄ました顔をして本を読んでいる姉ちゃんのせいだ。

「探していた本が見つかったらしいから行ってくるね」

 今生の別れになるかもしれないのに、いきなり姉ちゃんがそんな事を言い出したのが四日前。普段通りのとぼけた口振りだったのが、今思い出しても腹立たしい。分かってんのかよ、姉ちゃん。落ち着いてはきているらしいけど、姉ちゃんみたいなぼんやりしてる女一人で遠出できるくらいの治安じゃないんだぞ? この前も近所の図書館に行くだけで迷子になってたじゃないかよ。

 そんな事を伝えても読書に命を懸けてるみたいな姉ちゃんに届くはずもなかった。

 分かってた。

 分かってたから、俺はこうして可愛くもない姉ちゃんとバスに揺られてる。

 世界が終わるまで残り三日しかないのに知らない町に向かっている。

 残り三日、彼女とかと過ごしたかったよ、俺は。居ないけど。

 俺の気持ちを知っているのかいないのか、いや、絶対知らないだろう姉ちゃんはずっと本を読み続けている。一緒に旅をしているというのに、俺と姉ちゃんの間にはほとんど会話もないままだ。何なんだよ、この姉弟。

 姉ちゃんの探していた本は俺達が向かっている町の図書館にあるらしい。

 もし見つけたところで姉ちゃんはその本を読み切れるんだろうか。全十巻らしいし、今更見つけても世界が終わるまでに間に合うか微妙なところだ。特に姉ちゃんは読書家の割に読むのが俺よりも遅い。焦点が合ってない眼鏡を掛けているせいだ、絶対。

 俺が仏頂面を浮かべているのには気付いたらしい。

「ごめんね、お姉ちゃんに付き合わせちゃって」

 少し申し訳なさそうに姉ちゃんが頭を下げる。

「いいから本読んでろって」

 俺は姉ちゃんから目を逸らして呟いた。

 いいんだよ、別に。

 何考えてるのか分からない姉ちゃんだけど、会話が少ない姉弟だけど、それでも世界の終わりまで近くで見ていたいくらいには、姉ちゃんが本を読んでいる姿が好きなんだ。

 だから、俺は姉ちゃんと一緒にバスに揺られるんだ。

 あるのかないのか分からない、姉ちゃんが読みたかった本を探して。

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セラミックガール~たかが世界の終わり、されど世界の終わり~ 猫柳蝉丸 @necosemimaru

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