赤と青の更新

エリー.ファー

赤と青の更新

 悲壮感がないと言えば、嘘になるが、このままの状態でゲームをリリースすことは不可能である。

 ゲーム自体が面白いのではない。

 こんなものリリースされたところでまともに人がお金を払ってくれるとも思えない。

 次に、ゲームの質の部分。これも低い。生卵だと思って渡されたものがゆで卵で、かつ、鶏の卵ではなく蟹の卵だった、というようなもの。いわゆる。これじゃない感がとても強いのだ。

 何がしたいのか。

 何もかも、狂ってしまっている。

 ずれたらずれたまま、外に出して評価を仰げばいいというのは、確かに考え方の基準として正しいところはあるだろう。ただし、そのことによって社会から、ぺ寝る手kl機を受ける場合も当然存在する。そうなったときのそのペナルティへの対処を誰が行うのか。

 どうしても。

 私になるのではないか、と思う。

 責任者という名前が付いているものの、それについてこちらが了承をしたわけでもない。

 だというのに。

 この肩書は付いて回ってしまう。

 そういうものなのだ。

 そういうものなのだろう。

 ゲームはリリースする。

 怒られもする。

 とにかく、完成させる。

 怒られるために働いている。

 何なのだろう。

 何なのだ、これは。

「チーフ、どうしますか。どちらで応急処置をしますか。」

「もう。」

「はい。」

「応急処置という言い方をするんだな。」

「はい、そうですが。」

「応急処置ではなくて、あくまで製作過程であるとか、そのような言葉でもう少しん内実を濁してほしい。」

「濁しきれません。既に淀んでいます。」

「上手いこと言う。」

 さて。

 どうしたのものか。

 一つはもう少し、キャラクターの特徴を加えることでゲーム自体の矛盾を失くす方法。

 もう一つは、ゲーム自体のジャンルを変えて、何故か本編よりもクオリティの高いミニゲームを前面に推しす方法。

 どちらであってもいい。

「キャラクターの方は、プロデューサーの機嫌を伺うには抜群ですが、絶対に面白くないゲームが出来上がります。」

「分かっている。逆に、ミニゲームを前面に推すと、プロデューサーに怒られはするものの、ゲーム自体の質は非常に高くなる。」

 私は少しばかり考える。

 ただ、時間は余りない。

 リリース時期を四度も遅らせておきながらこれ以上の、待った、はお凡そプロデューサーも無理だろうし、ユーザーも無理だろう。

「このゲームを待っているユーザーがいるかどうか、という問題もありますね。」

「そこはやめよう。何の反応もなければ批判も来ないという受け身の姿勢は悲しいものがある。」

「承知しました。」

 私は立ち上がると廊下にある自販機の前に立った。

 最近某有名飲料メーカーが新しい缶コーヒーの販売を開始した。

 どちらも料金設定が二百円ということでかなり割高ではある。

 しかし、評判はいい。

 一つは赤い缶に入った微糖。

 もう一つは青い缶に入った無糖。

 赤い炎と、缶を飲み干そうとする働く男のシルエット。

 青い炎と、缶を飲もうとする働く男のシルエット。

 どちらもそれなりにかっこいいと思う。

「もう、日付も変わるな。」

 部下と二人で仕事をすることになり、こんなにも寂しいことはない。

 部下も悲しそうな目で私のことを見つめていた。

 すまない、こんなチーフで。

「チーフ。」

 私は驚いて後ろを振り向く。

「どうした。」

「一緒に働けて楽しいですよ。できれば、こういう日が何にも続けばいいとすら思っています。」

「あぁ。有難う。」

「それじゃ。」

 そう言って帰っていく。

 高校生なのに随分としっかりとして目を見張るものがある。

 さすが、としか言えない。

 あの年で副チーフとしての役職についているだけある。

 私は携帯電話を取り出してプロデューサーに電話をする。

「もしもし、はい。石草市凪和中学校二年の製作委員です。もう少しかかる見込みなので折り返しお願いします。」

 本当に、良い時代になったと思う。

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