代用品
引き出しの奥の方から
消しゴムが出てきた
鉛筆で書いた薄れた文字
目を凝らすと「歩」と書いてある
これはあれだ小学生の時
駒をなくして代用したやつだ
その時の盤駒はどうなったのだろう
消しゴムだけが今手元にある
風邪が流行って委員長も副委員長も
休んでいていない中で
一度だけ学級会の司会を任された
運動もできないかっこよくもない僕が
代用で輝けた一瞬
あの頃は真面目で素直だったから
そんな機会もあったけれど
ひねくれて成績も普通でただの少年になって
駒になることすらなくなった
ノートに書かれた論文の案の
修正のためにその消しゴムを使うと
ちゃんと文字が消えた
まだ生きていたんだ
本来の役目なら
今だって主役なんだ
歩にしてしまってごめんね
ずっと忘れていてごめんね
百均で買った盤駒セットすら
最近はほとんど使わなくなったけれど
将棋のことはずっと好きだった
好きだと思っている
その心が揺らぐときもある
棋譜をあんまり確認しなくなった
代表戦に出なくなった
将棋を嫌いになっても
世界はきっと何も変わらない
三十九個消しゴムを買ってきて
残りの駒を作った
代用品でどこまでできるだろう
また忘れてしまうのだろうか
問題なく代用できるだろうか
そもそも駒とはなんだろうか
消しゴムとはなんだろうか
もうなんだっていい気がしてきた
もう僕が
引き出しに入ってしまおう
きっと
将棋ぐらいしか楽しみがない
暗くて楽しい場所だ
もう一つ消しゴムを買ってきて
「僕」と書いた
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