お題【眠る】 眠れる姫の夢

 歓声が聞こえる。

 私達の結婚式を祝う、民の声が。

 長き眠りは過ぎ去ったのだ。


 目を開けたとき、そこにいたのは見知らぬ人だった。王子と名乗るその人は、魔女の呪いで100年眠っていた私を救い出してくれたのだという。


 歓声が聞こえる。

「さあ行こう、愛する僕の姫」

 優しく差し出された彼の手。

 私は彼にほほえみ返し、手を取った。


 私は夢を見ていた。

 100年の間、私は愛する人と人生を歩み、幸せに歳を重ねていた。

 目覚めた今、100年ともに過ごしたはずの人の面影、愛していたはずの人の姿は、手のひらから砂がこぼれるように消え去ってしまった。


 歓声が、聞こえる。

 私達の結婚式を祝う、民の声が。

 長き眠りは、過ぎ去ってしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る