とある国のロボット

ひみ

とある国のロボット

 僕はロボットだ。

 だから、感情を持たない。誰かに話しかけられて答えることはできても、それは機械的な動きの一部でしかない。

 僕の主人は、とある国の王女だ。彼女とは、いつも一緒にいた。王女はとても元気で、よく泣き、よく笑っていた。

 前に、彼女に聞かれたことがある。

「どうしてお前は、笑わないの」

「感情が無いからです」

「かんじょう? それは何」

「何かを嬉しいと思ったり、悲しいと思ったりすることです」

「ふうん...じゃあ、なんでお前にはかんじょうがないの」

「それは、僕がロボットだからです」

「え。お前はわたしと同じにんげんじゃないか」

 どうやら王女は、納得できないようだった。

 王女はすくすくと育ち、やがて美しい女性になった。その頃には、僕も殆ど彼女には会えなくなっていた。

 そんなある日。事件はおこった。

 その日は、王女の十六歳の誕生日だった。この国では、十六歳から大人だと認められる。

 誕生日パーティーは、たくさんの人を招いて城で大々的に行われた。

 王女は、華やかなドレスを着て、髪を綺麗に結っていた。

 そして、王女が誕生日ケーキを切り分けようとした時。


グサッ。

バタリ。


 壇上で笑っていた王が倒れた。その背中には、剣が深々と突き刺さっていて。

 周りには、赤い水溜まりができた。

 騒然とする会場で、一人だけ笑っている者がいた。


 大臣だった。


 大臣は王の背中から剣を抜き取ると、「かかれ」と叫ぶ。

 その瞬間、殺戮が始まった。

 どこに隠れていたのか様々なところから兵士が出てきて、次々に逃げ惑う人を切り裂いていった。

 后の胸がえぐられ。王子の首が飛び。悲鳴をあげる人々を、「助けてくれ」と叫ぶ人々を、僕はただ柱の影から見ていた。

 誰も僕には気がつかなかった。

 あるいは、ロボットなんかに興味は無いのか。

 そしてとうとう、ケーキの前につっ立っていた王女も。


 兵士の剣に、胸を貫かれた。





「あ"ああああああああああああああああ」




 その叫び声が僕のものだとも気付かずに、誰かの背中に刺さっていた剣を引き抜いて走っていた。

 途中、襲いかかってくる兵士を何人も殺して、たくさんの血を浴びた。

 一人の兵士の腕を切り飛ばしながら、不思議に思った。

 今、僕を突き動かしているのはなんなのだろう。

 誰の命令でもないのに、こうやって兵士を殺しているのはなぜだろう。

 全ての兵士を殺して、大臣の元に辿り着く。

「ま、待ってくれ、お願いだ殺さないでくれしにたくなーーー」

 ズシャ。たった一振りで、その頭は簡単に床に落ちた。

 剣を放り投げ、今度は王女の元に走る。彼女の胸からは、どくどくと血液が流れ出ていた。

「王女様」

 呼びかけると、王女は苦しげに目を開いて。

「お前は......やっぱり、人間だな」

 消え入りそうな声で、呟いた。

「......違います。僕はロボットです」

「それなら何故、お前は泣いているんだ」

 言われてはじめて、何か温かいものが頬を伝っているのを感じた。

 それは自然と目から溢れ出ていく。

 その滴が一粒、ポタリと王女の頬に落ちた。

「笑ってくれないか。私は、お前の涙ではなく、笑顔が見たい」

「わらう......笑うとは、どのようにすれば良いのですか」

 王女は微笑むと、目を閉じた。

「ハハ、本当に、おまえ、らしいな......」

「......王女様?」

 それから、どれだけ呼びかけても、返事は返ってこなかった。


 とある国のとある城で。

 死体が転がる広間の中で一人、血まみれの青年が座り込んでいた。

 静かに涙を流していた彼は、ふいに目の前の女性の胸に刺さった剣を引き抜き。

 自分の心臓に突き立てた。

 そして。

 その場に、呼吸をする者は誰一人いなくなった。

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とある国のロボット ひみ @harapekoshirayuki

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