君の為の十節詠唱《テンカウント》

星美里 蘭

盲目城の少女《カトレア》

序章 純白のカトレア

 ――あぁ、私はいつになったら外に出られるのだろう。


 上も下もない、色とりどりの白で飾られた部屋で、私は今日も独り言ちる。

 それが意味のないことなどは、当の昔に気付いている。

 私が出れないこと、出てはいけないことは、私が一番気づいていた。


 ――あぁ、なぜ、おとうさまは今日も来てくれないのだろう。


 在りし日に思った言葉がフラッシュバックして、忘れるように首を振る。

 ふわふわと宙に浮いた寓話を抱きしめて、私はいつもそれを思う。

 唯一、私が欲しくって、お願いして、買ってもらった最初の本。

 そして父様との最後の本。


 夕焼けに染まる空。

 新雪の降り積もる雪。

 青く薫る初夏の風。

 瓦礫ばかりの私のお城。


 様々なものが振り返っては私の頭を駆け巡る。


 ――それでも……それでも。


 もう出ることはないだろう。

 一生このまま、白馬に乗った王子様かかぼちゃの馬車の魔法使いを夢想して、私はどうせ、ここにいる。

 どうしようもなく、意味のない。

 ――戒めのために、ここにいる。

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