05.ふるさとの箱庭

 迷宮は、箱庭。遊び場であり、危険と楽しみが同居している。

 そこになんでもある、あなたのふるさと。



 この世には迷宮というものが存在する。どこまで続くのかまだ誰も知らない。でもそこには無限の宝があると言われ(実際お宝を持って帰ってきた人は多い)、モンスターや危険な罠がはびこり、思いもよらぬ自然の造形の芸術や、迷宮に棲む者の生活まで存在する。


 初めて迷宮に足を踏み入れた時に、まるで小さな箱庭のようだと思った。この場所は本当に思いもよらぬものを見せてくれて、想像力をかきたててくれる。様々な出会いを経て、僕は今も迷宮に通い続けている。


「右から、モンスター!来るよ!」

 傍らで鈴を転がすような可愛らしい声。傍らにいる彼女も、その出会いのうちのひとつだった。迷宮探索の第一陣だった人々が深層で作った開拓村の民なのだ。

 彼女は探索者の末裔で、ずっと迷宮の中で暮らしてきて、僕と一緒に初めて迷宮の外へ出た。外の世界ではしゃぐ彼女を見てから、ますます一緒にいるのが楽しくなっている。


 ……というのはおいておいても。

 元来この場所で暮らす者だからか、彼女は気配に非常に敏感で、罠やモンスターをいち早く発見してくれる。探索では助けられっぱなしだ。

 彼女の注意喚起に僕は首肯し、

「了解、避けよう」

「急がないと!」

「わかってる」

 その頃にはさすがに僕にもモンスターの気配が感じられるようになっている。気配そのものは強そうとは思わない。だが数が多そうで厄介だ。


 僕は彼女の手を引いて走り出した。迷宮は彼女にとって馴染み深い所かもしれないが、同時に誰にとっても危険な場所でもある。ここに住んでいたとはいえ、彼女だってモンスターと戦えば死ぬこともあるのだ。急がなければ。


 と言って急いでみたものの、この先の道は狭く視界も悪い。情けないが一瞬で足が鈍る。


「大丈夫だよ、私に任せて」

 彼女が僕の手を引いて走り出した。

 そうだ、ここはなんでもある、あなたのふるさとだった。彼女の遊び場でもあった。

「それじゃ……お願いしちゃおうかな」

「魔法は魔術師、迷宮は迷宮屋よ」

「はは、たのもしい。」


 迷宮の謎がいつか解ける日は来るのだろうか。そんなことより、僕は僕のことと彼女のことで手一杯、頭いっぱいかもしれないと……走る彼女の背中を見て思うのだった。



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