06.巌

 巨岩を前に男は己が二つの拳のみをもって佇んでいた。否、拳だけではない、鍛え上げた筋肉、腹の中で練り上げた気……。


 その身体はひとつの集大成である。

 舗装された道を走ることから始めた。次第に道無き道を往くようになり、山林を駆けるまでになった。

 ひたすら基本を繰り返す日々から始めた。やがて正しい形で発展系を見出し、それは己の技として心身に染み付いた、己だけの技となった。

 今となっては、衣食住礼節文化に至るまで全てのことが、同じ道に通じているように思えている。


 ゆえに――。

 男は二つの拳のみをもって相対している。

 この巨岩を打ち砕くを如何にせん、と。

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