03.凪の一刃

 白光を見ただろうか。いいえ、それは幻……一太刀、目にも映らぬものゆえに。

 あまり抜き打ちの速さ、動作の速度ゆえにそして剣士は〝凪の一刃〟と呼ばれた。その術は何も起こっていない平らかな湖面のように……あるいは波一つない海のように、人々には思えたからだ。

 どのようにして剣を修めたのかと尋ねられても、剣士は微かに笑って首を横に振るだけだという。何か大きな秘密が必ずやあるに違いないと、我もその術を盗みとってやろうという者は少なくなかったが、秘密に辿りつけた者はいなかったし、そもそもそんなものがあるのかも明らかではなかった。


 それこそ剣士はまるで凪そのもののように泰然と動かぬように見えて、激しく戦場を駆け抜け、やがて唐突に歴史と物語の上から姿を消した。

 彼がどうなったか知るものはいない。が――片田舎のこじんまりとして心地よい家で、木こりでもないのにやけに木を切るのがうまい男が、妻と愛犬と共に幸せに暮らしているのを、私だけは知っているのだった。

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