第2話 名もなき花に恋をした神様


 最初は何でもない、どこにでもある花だと思っていた。

 野原に咲き誇るただの花。


 風に揺られ、雨に打たれ、厳しい土地でも懸命に生きる。

 常に笑顔で、楽しそうに──


 いつの間にか、その花を慕って集まってくる。

 みな、その花の傍が居心地いいのだろう。

 お日様のように温かな空間。


 一生懸命に生きて、花開く。

 僅かな時間は、砂時計のよう。


 あまりにも、刹那的な出会い。

 気づけば、すぐに枯れて消えてしまう。


 それでも、何度でも、どんな場所でも、懸命に生きる。

 途中で摘まれても。

 つぼみのまま切られても。

 身代わりにされても。


 その瞬間まで、生きようとする。

 ふと、触れた花は、冷たくなっていた。


 まるで自分が命を奪う存在のように。

 その花は散っていく。

 私の手から滑り落ちて。


 ああ、いつの間にか私に心を与えて。

 そのまま、心を奪っていく。


 待ってくれと、はじめて声を上げた。

 胸が痛い。

 苦しくて、息が出来ない。


 ああ、どうして今頃気づいたのだろう。

 そのまま知らなければ良かった。


 刹那であろうと、一瞬であろうと。

 あの花の笑顔が見たいと。

 想っている自分がいた。


 溢れる想いも、願いも。

 せきを切ったように、感情が膨らんでいく。


 もし、この想いに名を付けるなら。

 なんと、つけるのだろう。


 もし、この願いが叶うなら。

 いつまでも、待てるだろう。


 たとえ四千年であろうとも、また出会えるなら──

 万物の揺蕩たゆたう海の中で、待とう。






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言の葉 あさぎかな@電子書籍/コミカライズ決定 @honran05

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