103、中空の捕り物劇

 さぁ、もう屋上の端は目の前だ。ヴェネはメガネを指で押し上げつつ、鷹を視界に収める。そして、


「行くよ!」

「はい!」

「うん!」


 急減速するウェレイを横目に、ヴェネとミオナは迷わずジャンプ。ミオナの跳躍力には当然適わず、上昇の止まったヴェネの体は真っ逆さまに地上へと落ちていく。


「せいっ!」


 と、パチン、と指を鳴らす音とともに、ヴェネの見る景色が様変わりする。


 未だに上昇を続けていたミオナが、一瞬で眼下にいる。ウェレイの他者転移によってヴェネの体が上空へと運ばれていたのだ。


 先程よりも大きく見える鷹の姿。これなら、届く!


「終わりだ!」

「嘘ぉっ!?」


 自身の空間跳躍によって残りの距離を埋めたヴェネは、鷹の鉤爪にナイフを振るう。さすがに切断するには至らなかったが、痛みに喘いだ拍子にリーヴァルを振り落とした。


 落下していくヴェネとリーヴァル。事ここに至っても、リーヴァルは諦める素振りを見せない。まだ奥の手があるのか、エプロンに手を突っ込む。


「させません!」

「ひゃあっ!」


 が、ミオナの放ったクモの巣が全身に絡みつき、リーヴァルはその状態のまま身動きが出来なくなった。


 リーヴァルは術者としては厄介極まりないが、このクモの巣は対能力者に特化したつくりになっているらしい。人獣レベルの怪力を持っているわけでもないので、とりあえずはこれで無力化できたはず。


 ヴェネはクモの巣まみれの彼女を回収しつつ、さらに落下していく。と、


「うわっ!」


 奇妙な感触が全身を包み、ヴェネは驚きの声を上げた。


 空間跳躍が再度使えるようになってから、どこか安全な足場に移ろうと考えていたのだが、唐突に体が何かに受け止められたのだ。見やると、クモの巣だった。


 非常階段の手すり、隣のビルの壁を這っている鉄パイプなどに絡みつき、それこそ巨大なクモの巣となってビルの隙間に張り巡らされたのだ。


「ご無事ですか」


 と、ミオナも遅れてクモの巣に降り立つ。衝撃を和らげる為に大きく形を歪ませるが、クモの巣は千切れる様子など微塵も見られない。


 伸縮性と強靭さを併せ持つ糸。本当にクモの巣みたいだ。

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