80、重要参考人

「……ねぇ、ミオナ。エレノアって、さっきの女の子?」


 尋ねるウェレイに、カップを置いたミオナが応える。


「はい、そうです。ああ見えてヴェネさんよりも先輩の捜査官だそうですよ?」

「僕より5歳年下なんだけどね。エレちゃんって呼んであげて、ウェレイさん」

「エレちゃん、ねぇ」


 確かに、彼女の容姿からしてその呼び方はかなりしっくりくるものがある。けれど、彼女が別れ際に言い放った言葉が今も頭に焼き付いていて。


『現場検証をすっぽかすからには、使える情報を持ち帰れ。さもないと6回殺す』


 少女らしからぬ、冷たい声音。その佇まいも含め、彼女が捜査官なのだという事を思い知らされた。


 使える情報を持ち帰れ。それはつまり、彼女達が追っている模倣犯事件、そして人獣事件を解決に導ける有用な情報を聞き出せ、という事。


 聞き出す? 誰から? ま、考えるまでも無いよね。


(……あたし、尋問とかされちゃうのかなぁ。いや、そういう感じでもないかな)


 どこにでもいるノリの軽い優男、みたいな感じのヴェネですら、〝死神〟の顔を隠し持っている。人獣達との闘いを見て、確信した。やっぱり彼も捜査官なのだと。


 それはミオナも同じ。物腰が柔らかく見えるけど、〝裏〟で名を馳せた〝雲狐〟の娘なのだ。見た目通りなはずがない。


 尋問と言う形になるかどうかはさておき、今の自分は彼らにとって重要参考人的な存在になるんだろう。まさか〝大鷲〟と〝土竜〟の捜査官とこんな形で相対する事になるとは、一ヶ月前の自分には予想も出来なかった。


 人生、分かんないよね。ウェレイが自嘲気味に笑ったその時、ヴェネが一つ咳払い。場の人間の注目を集めた。


「それじゃあ全員揃ったところで、情報交換と行こうか。えっと……ウェレイさんも、大丈夫かな? まだ目が赤いけど」

「うん、大丈夫。あたしだって、あんなに大泣きする事になるなんて思ってなかったよ」


 緊張の糸が切れた、と言うのとは少し違うか。


 ずっと抱え込んでいた言葉や思いを、ようやく吐き出せる時が来た。その安堵、決意、焦燥、全てがごちゃ混ぜになって、溢れて来たんだと思う。


「ふむ、女というのはか弱くもあり図太くもある、面倒な生き物という事じゃ。そうは思わぬかの? ヴェネよ」

「う~ん……どう答えても、女をバカにしてる! 的なツッコミが飛んできそうだし、ノーコメントで」


 つまらんのぉ、と底意地悪く笑うレミリィ。


 レミリィなりに、場の空気を和ませようとしてくれたんだろうな。多分だけど。

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