63、窮地

 行き着いた場所は、寂れた公園。


 壊れかけた街灯の光が明滅している。安定しない明かりが無性に不安を掻き立てる。中央区らしからぬ物寂しい佇まいからは、急激な発展に取り残されている事が窺えた。


 当然ながら、人気なんて皆無。それに、寂れているとはいえ遊具は健在なので、これを利用すれば風の攻撃も防ぎやすいはず。


 一縷の希望を胸にウェレイは公園に飛び込み、


「つっかまっえた、っとぉ!」

「ぃっ……ぁ!」


 力任せに叩き伏せられた。鈍い痛みが全身を襲う。


「ったく、面倒掛けさせやがって。ま、〝力〟を乱発できて楽しかったがよ」

「お、おい……やっぱり、殺すのかよ」


「あ? てめぇ、怖じ気づいてんじゃねぇぞ。そういう計画だろうが」

「けどよ……」


 またも言い合いを始める2人。風を纏う男がこれ見よがしに溜息を吐く。


「はぁ、もういい。俺がやるからお前は〝大鷲〟が来ねぇか見張ってろ無能」

「…………」


 今しかない……! ウェレイは体を押さえ付ける手を強引に払った。そして懐に忍ばせたスコルピオ製の拳銃の銃口を男の顔に向け、


「喰らえ……っ!」

「てめっ!?」


 拳銃の引き金を引くのと、風の刃が放たれたのは、ほぼ同時だった。


 向こうも顔を狙っていたのだろう。銃弾が男の頬をかすり、風の刃がウェレイの髪の一部を切り落とす。


「この、くそアマがぁっ!」

「きゃあっ!?」


 怯んだ隙に拘束から完全に逃れようとするも、激高した男がなりふり構わず覆いかぶさるようにウェレイの体を押さえつけた。さっきのような不完全な拘束じゃなく、拳銃を構える事すら許されない程にがっちりと動きを封じられてしまっている。


「調子乗ってんじゃねぇぞ! 八つ裂きにしてやる!」

「こん、のぉ……っ!」


 どうにか足掻こうとするも、やはりびくともしない。男が黒頭巾の後ろでせせら笑う。


「くははっ、女の細腕で笑わせんな! おら、とっとと死ねよ!」

「君が、ね」


 ごっ! と鈍い音と共に、体を縛る圧力がふっと消え去った。

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