見直し、そして進展
37、土竜
そのオフィスビルは2階建てで、この上なく地味な佇まいだった。
大通りから外れた通りにひっそりと佇み、高層ビルだらけのヴァーヌミリア中央区に於いて、全くと言っていいほど目立たない。そんな建物。
そこを居城としているのは、人材派遣を請け負う会社らしい。どのような人材を擁しているのか、どれほどの実績があるのか、などと言った情報が、中に入ってすぐに目に付く掲示板にこれ見よがしに掲示されている。
1階が受付で、2階が事務所のようだ。顧客の姿は見えず、受付で何やら作業にいそしむ女性1人しか見当たらない。
――まぁ、それらは全て
「今、空いてますか?」
先導したミオナが、懐から
「……御用向きは?」
「極秘です。質問も受け付けません」
「承りました」
あらかじめ用意されていたかのような、不自然なまでに滑らかで、どこか噛み合っていない会話。合言葉的な何かかな、と適当に考える中、女性が2階へと歩みを進める。ハイヒールなのに足音1つすら聞こえない、ぞっとするような完璧な足運びだ。
2階の事務所の中には、小さめのテーブルとそれを挟んで向かい合う3人掛けのソファーが2つ。その他にも細々とした家具や、来客用と思しきカップや電気ポットなども見え、どちらかと言うと応接間に近い構造だ。
「それではごゆっくり。……ミオナ・ヴァイルブス、30分後に〝お客様〟がいらっしゃるので、それまでに」
「分かりました」
女性は恭しく頭を下げ、部屋の外へと消えていった。
「……あなたとは初対面のはずなのですけど、ね」
と、ドアの方を見やったミオナが、声を潜めてそんな事を言う。
「? 今、名前を呼ばれてましたよね? しかもフルネームで」
「知名度だけは高い、という事です。……大変、不本意ですが」
ライラさんの娘だから、かな? 〝雲狐〟は〝表〟でも盗賊……いや、義賊として広く名が知られていたが、〝裏〟の世界ではそれ以上の有名人だ。
どちらかと言うと、並はずれた実力を持った超人として、ではあるが、何にせよその一人娘が注目を浴びるのは無理からぬ事だろう。
ミオナは1つ息を吐き、超能使いとの交戦でボロボロになったコートをおもむろに脱いだ。
「どうぞお座りください。コーヒーしかないですが……ミルクと砂糖はどうしますか?」
「あ、そうですね。どちらも下さるとありがたいです」
「少々お待ちを」
電気ポットの前で、計量スプーンを使ってコーヒーの分量を量り始めるミオナ。ライラさんなら確実に目分量だっただろうなぁ、と微笑ましい気持ちになったヴェネは、結露してぼやけた窓の外に視線をやった。
この建物は〝
(わりと史上初じゃないかな? 〝大鷲〟の人間が〝土竜〟の支部に招かれるって)
折角だし〝烏〟の誰かに自慢して……いや、なんか怒られる気がする。不可侵規約もあるし。やめとこっと。
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